ex.1 お友達からはじめましょう

その日、どうやって知ったのか  誕生日だからと、友達が俺に花輪を掛けたりクラッカーを鳴らしたりと騒いでいて。騒ぐ理由が出来たとばかりに、昼休みにはクラス中がお祭り騒ぎになっていたから、廊下まで声が聞こえていたのだと思う。驚いたような顔をした問覚と、一瞬、目が合った気がした。

放課後、相澤先生との訓練のない日は問覚が相手をしてくれることが増えた。今日はたまたまその日で、あの昼休みの一件があったから、ほんの少しだけ気不味くて。もしかしたら気のせいだったかも、と自分を納得させながら向かったいつも組み手の手合わせをする体育館裏に向かうと、そこにはいつもの様子の問覚  とは少し違う、猫まみれになった彼が地べたに座り込んでいた。

「あ、心操きた」
「・・・どうしたのそれ、すごいことになってるけど」

問覚の周りには、猫、ネコ、ねこ。たまに校舎裏のベンチで見かける猫以外にも人懐っこそうな猫三匹を、彼は両手を使ってそれぞれ構いながらこちらへ顔を向けた。その眩いばかりの笑顔に本当に気が抜ける。

「心操、今日誕生日なんでしょ?俺にできることなんかないかなって思って・・・お前の好きなもの、猫しかしらなかったから」

気まずげに視線を彷徨わせて頬を掻くのは問覚の癖だ。何も反応しない俺に困っているのだろうことは分かっているのに、彼の台詞に思考が停止してしまってすぐに言葉を返す事ができない。クラスの連中に祝われた時だってまさかという思いが抜けきらず、嬉しいのと同時に困惑してしまっていたのに、こんなのは更に想定していなかった。だって問覚はヒーロー科で、推薦入学者で、戦闘だって俺よりずっと強くて、個性の使い方だって万能で  そんな彼が、俺に、こんな、友達、みたいなこと。

「ご、ごめんな?今度ちゃんとプレゼント用意するから!なにが欲しい?俺そういうのあんまりした事ないから、欲しいもの教えてくれると嬉しいんだけど…」

俺の沈黙を勘違いして言い繕う問覚は、プレゼントを気に入らないからだと勘違いしたようだった。彼の足の間に陣取っている、いつも校舎裏のベンチで彼に甘えているあの猫が、俺を責め立てるように鳴き声を漏らす。違うんだ、不満なんて欠片も無い。ただ、嬉しくて  初めて出来た、同じ場所を志す"友達"が、俺のことを思って用意してくれたものが、本当に、ただただ、困惑してしまうほどに、嬉しくて  そこまで考えた時、俺は、自分が問覚の事を、ハッキリと"友達"だと認識している事に気がついた。

「今度ちゃんとなんて、必要ないよ  これだけで充分、すごく嬉しい」

問覚が俺に向けてくれる感情に、いつも無意識に卑屈になっていた。彼は俺より凄いのだから、俺に構って時間を使ってもらって申し訳ない、俺の為にわざわざ訓練まで付けてくれて、と  けれどそれと同時に、頭の片隅では分かっていた。彼が俺にここまでしてくれるのは、俺のことを純粋に好いてくれているから。一緒に居るのが楽しいと、心地良いと思ってくれているから。そういうものを、彼は態度や言葉で伝え続けてくれていたのに、俺はそれを真正面から受け取るのを、いつも躊躇していたのだ。

「へ・・・、ふふっ、そっか!」

俺が嬉しいと言ったことに、純粋に喜んでくれているのが分かる。少し気恥ずかしそうに、足の間の猫を構って気を紛らわせるようにして。俺はその隣に、いつかのように乱雑にではなく、そっと、愛らしい生き物たちを驚かせないようにして、腰を下ろした。こちらを見て嬉しそうに微笑む問覚の頭に、思わず手が伸びる。自然と撫でてしまった自分の行動に気が付いたのは、彼が吹き出した後で。

「ふはっ・・・!撫でるならこっちだろ!」
「・・・、大きい猫かと思って」

自分の行動に驚きながら、こんなに受け入れられている事を噛み締める。

「にゃー、って言った方がいい?」
「うん、可愛く甘えてみて」
「にゃあ?」
「ッ、」

俺が頭を撫でる手を気持ちの良さそうに瞳を細めて受け入れる彼の猫みたいな様子に、どこか胸の内側を撃ち抜かれたような心地がしたが、そこまでは  まだ。
考えないようにしながら、隣で笑う問覚にありがとう、と伝えて微笑んだ。



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