12 戦いは終わらない

襲撃の翌日  学校は臨時休校となり、外出禁止を言いつけられて家で大人しく過ごした。敵の侵入と撤退やオールマイトの苦戦、先生達の怪我や自分達の未熟さに、落ち着かない一日はあっという間に過ぎ去った。

「皆ー!朝のHRが始まる!席につけー!」
「ついてるよついてねーのお前だけだ」

休校明けの教室の中、どことなく不穏な空気が流れるのは、ここに一人、居るべき人間が足りていないからだった。

「お早う」
「「「相澤先生復帰早ぇぇぇぇ!!!」」」
「先生無事だったんですね!!」
「無事言うんかなあ、アレ…」

相澤の登場に心から驚きつつも、みんなどことなくそわそわとした様子で、口火を切ったのは、切島や瀬呂の、彼とよく話している連中だった。

「先生ッ!!」
「先生、問覚は・・・!」

そう、クラスの中でただ一人  問覚だけが、今日この場に居なかった。

「問覚は午後から来るよ」
「大丈夫なんですか?」
「そんなに酷いんですか!?」
「まだ体調が!?」

雄英教師陣が到着した安堵の中、たった一ヶ所だけ空気の違った場所。倒れるようにマイクに凭れかかる問覚と、焦ったようにこちらを呼ぶ麗日の姿。冷やせば大丈夫だからと朦朧としながら繰り返す苦しげな様子を、今でもまだ目の前にしているかのように鮮明に覚えている。警察から聞いた限りでは、ただの個性の使い過ぎによるオーバーヒートで、保健室の治療で十分だと聞いていたけれど  

「いや、アイツは睡眠不足で  事情聴取がまだ出来てないから、午前は警察と話してるだけだ。心配いらないよ」

そんなみんなの心配を他所に、相澤は少し言い難そうにそう言うと、立ち上がり気味だった面々を落ち着かせるように席に着くよう促した。

「睡眠不足…?」
「大丈夫なら良かったですわ」
「心配して損したぜ!」

ホッとした空気の流れる中、相澤の言葉にどこか違和感を感じて、轟は一人静かにその疑問と睨み合う。

「無事な奴の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ」
「戦い?」
「まさか・・・」
「まだ敵が  ?」
「雄英体育祭が迫ってる!!!」
「「「クソ学校っぽいの来たあああああ!!!」」」

新しい話で教室が盛り上がる中、頭の中はぐるぐると疑問で渦巻いていた。



「あっ!問覚来た!」
「大丈夫か問覚ー?」
「大丈夫大丈夫、ごめんな心配した?」

昼休みが終わる頃、素知らぬ顔でやって来た問覚に、芦戸や瀬呂が駆け寄って行く。それにいつも通り笑顔で返す問覚を、轟はジッと見つめていた。

「お前!睡眠不足って何だよ!」
「いやぁ、俺、人よりたくさん寝なきゃでさー」
「朝いないから心配したのに損したぜー」

切島や上鳴にそんなふうに戯けてみせる問覚と、ふと視線が交わる。

「問覚」
「轟この間はありがとな!おかげで熱下がったわ」

それとなく輪の中から抜け出して目の前までやってきた問覚に、思っていた事を尋ねようとした時、

「ああ…なぁ、」
「あっ、ちょっと轟こっち来てくんない?」

腕を掴まれて、教室の後ろのドアから廊下へ連れて行かれた。

「ごめんな。あんま皆に心配かけたくなくて」
「・・・お前、やっぱまだ本調子じゃねぇのか」

轟が何故疑問に思ったのか  それは、間近で見ていた問覚の異常な様子や、熱すぎる体温などもあったけれど  相澤の『事情聴取がまだ出来ていない』という言葉に違和感を感じたのだ。あの襲撃の翌日、つまり昨日は丸一日休校だったのにも関わらず、その間、事情聴取すら行われなかった  言い換えれば、昨日は事情聴取が出来るような状態ではなかった、と言う事になる。両脚重傷の緑谷すら、リカバリーガールの治癒で当日帰宅したらしいのに、休校中もそんな状態だったなんて  何らかの問題が起きていたとしても、おかしくない。
そんな轟の思いを汲むように、問覚は苦笑して困ったように首元に手を置いた。

「あの後保健室行ってから、今朝まで寝てた  って言ったら信じるか?」

問覚の個性は、普段から他人よりも多くの睡眠を必要とするものらしい。そしてあの日、個性の使い過ぎでオーバーヒートして脳にかなりの負担をかけた。その回復の為に、いつもより更に眠る事になってしまったこと。そしてまだそれが、足りていないかもしれないこと。つらつらと言葉を並べる問覚を前に、轟は納得と同時に、何故、という気持ちが湧いてきた。

「まだ、もしかしたらふとした拍子に眠っちゃうかもしれなくて。なるべく迷惑かけないようにするけどさ」
「・・・なんでそんなこと俺に話した」

聞いたのは自分だったけれど、でも、全てを正直に言う必要はなかったはずだ。自分の、言うなれば弱味のような部分を  こんなに簡単に他人に晒すなんて、馬鹿げている。

「聞かれたらウソ言う訳にはいかないだろ?それに俺、轟は結構信頼してるから」

呆れからくる僅かな不快感に眉根を寄せた轟に、問覚はその表情を変える事なく、そんなことを口にした。

「信頼?」

全く意味が分からない。どこにそんな要素があった?問覚と轟は、この間の戦闘訓練や、先日の襲撃の件を除けば  あの校舎裏で、一度会っただけの関わりしかない。

「そんなに意外かな・・・一番はその冷静さ。あとは、お前  優しいだろ?」
「俺が優しい?どこを見たらそうなる…?」
「お前自分で自覚ないの?  まあ、いいけど」

そう言ってこちらへ背を向けて教室へ戻った問覚に、轟はかける言葉も見つからず、暫くその場に立ち竦んでいた。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -