10 知らないふりは出来ない

  ピッ、  ピッ、  ピッ、と規則正しい音の中に、ふと意識を浮上させる。目蓋を薄らと持ち上げると真っ白な天井に、吐く息が呼吸器の中で白く曇る感覚。病院か、と助かった事に安堵を覚えた次の瞬間、相澤は生徒達はどうなったのかと首を持ち上げ辺りを見回した。

「目ぇ覚めたか」

ガタッ、と立てた物音に、すぐ近くから声が落ちてくる。

「・・・マイク、生徒達は」

その姿にホッと息を吐き出しつつ、意識を失う直前のことを思い出してそう問い掛ければ、自分のことよりそっちかよ、と呟く同期は、呆れたような溜息のあと、ベッドに再び押し込めるように相澤の肩を押しながらこう答えた。

「ほとんどの奴らはかすり傷程度の軽症、緑谷と問覚だけ保健室で治療中」
「緑谷と  問覚が?」

緑谷はまたあの後先を考えない個性を使ったのだろう。けれど、問覚は?あの子は、そんな無茶をするような無謀なタイプではなかったはずだった。ならば、敵に襲われて?意識を失う直前、相澤を押さえ付けていた敵に立ち向かっていた生徒がいた気がするが、それが問覚だったろうか。

「緑谷は、まぁ分かるだろ?・・・問覚はな、個性の使い過ぎでオーバーヒートして熱が出て、そのあと眠っちまったんだよ」

オーバーヒートするほど個性を使ったのかと眉根を寄せながら何故そんな事態になったのかと疑問が浮かぶ。マイクはその思考を読んだかのように続けて口を開いた。

「問覚はお前の応急処置に個性をぶっ放したんだよ。粉々になった眼窩底骨を操作して元の位置に置き直した  って言ったら分かるか?」
  は、?」
「そンでその後バタッと倒れてからずっと寝てんのよ」

マイクの言っている意味が理解できず、相澤は言葉を失う。

あの子が、相澤の治療で倒れた  

相澤の知る限り、問覚の個性は索敵や隠密、情報収集系に特化したもので、応急処置や治療に使えるようなものではなかった筈だった。雄英に入学する際の資料にも、そのような事は一言も書いていなかったと記憶している。

「どういう事だ  ?」
「俺等にもサッパリよ。問覚が安定して起きてられるようになったら本人に確認しようって校長が  
「そんなに、酷いのか」
「ん?ああ、倒れた直後は脳や人体に影響が出かねないほどの高熱で  轟が直ぐに冷やしてその場は凌いだんだが  保健室で手の怪我直してから、パッタリ眠ったまんま丸一日以上寝てる。リカバリーガールの話だと、状態から見て脳の疲労はかなりのものだから、目が覚めても意識の混濁は暫くあるかもしれないって」

あの子がまだ幼い頃、個性をコントロールする練習に付き合っていた相澤も、彼が脳に他人よりも負担を強いていることや、その影響で睡眠が大切なことは知っていた。けれど、あの頃どんなに無理をしても、丸一日寝ているなんて事は一度も無かった。相澤の知らない間に、一体あの子にどんな変化があったと言うのだろう。今すぐ様子を見に行きたいが、それが出来るような状態ではない。もどかしさから、グッと拳に力が入る。

「……今は自分の心配しろよ」

そう言って眉根を寄せたマイクが、相澤の怪我の状態について低く語った。幸い脳系へのダメージは今のところ見受けられないとのことだが、顔面は骨折、両腕も粉砕骨折で治癒にはリカバリーガールの個性を持ってしても時間がかかること、そして目に関しては、後遺症が残るかもしれないこと。

「・・・問覚の応急処置が無ければ、失明していてもおかしくなかったそうだ」

相澤の個性"末梢"は、相手を見る事で発動するもの。見えなくなってしまえば、個性を使う事すら出来なくなっていた。

「そうか・・・礼を、言わないとな」
「アイツ、俺に縋り付くようにして、消太くんを早く助けて、って言ってたぜ」

それくらい、マイクが駆けつけた時の問覚は必死だったと言われてしまえば、相澤には無理を押して病院を出ることなど出来ない。深く溜息を吐き出すと、ゆっくり休めと言って去っていく同僚を見送った。



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