東京遠征への道

side田中

授業中に寝たらシバく、と澤村と菅原から脅されてビクつく田中達を横目に、月島と山口が帰っていく。

「で、わかんない事はわかんないままにすんな。俺達で多分教えられるから」
「大地さんっ・・・!」

教えてくれるという慈悲をくれる澤村に感動していると、あ、と気がついたように菅原が声を上げた。

「あ、でもバカ4人は千歳に聞くのは禁止な」
「えっ!なんでですか!?千歳さんめちゃくちゃ頭いいじゃないですか!」

不公平だー!と西谷が言うと、諏訪部が困ったように笑って菅原を見る。諏訪部は学内でも成績の良い方で、上位20位以内の常連だというのは菅原がいつも自慢している事だった。

「千歳にはお前ら以外も教えてもらったりするんだから、全部の相手してたら負担が大きいでしょーが」
「むっ・・・たしかに・・・」

そんな西谷と田中に澤村が言い聞かせるように言う。日向と影山は、俺達のやりとりを他所に、何やらごにょごにょと2人で相談と言い争いをしている。

「俺は別に構わないけど」
「ダメっ!!俺達が聞く時間がなくなる!!」
「・・・はぁ〜い」

シャツのボタンを留めながら諏訪部が小さくそう言うが、聞き逃さなかった澤村がビシッと睨みつけて止めるので、本格的に諏訪部には聞けない感じになってしまうようだ。



side菅原

土曜、菅原家。
部活後各々テスト勉強に励む傍ら、こちらには清水以外の3年生が集まっていた。

「あれ?千歳は?」
「千歳は自分家。もし分かんないとこあったら、17時になったら一回こっち来てくれることになってるから」
「あ、そうなんだ」

1、2年生には言っていないが、千歳の志望校は国立の難関大学で、1月まで部活を続けるということ自体、そもそもが難しいレベルである。今後部活を続けるかという話になった日、本人はどうしてもどちらもやると言いきった。なので、できる限りそれを支えてやれるのは、今まで支えられてきた自分達しか出来ないと3年生全員で話し合って決めた。勿論、清水もだ。

「千歳に聞くのは最終手段な」
「わかってる」

千歳の進路の話と、バレーを続けるかどうかの話では、実際のところかなり揉めた。何なら、菅原だってどっちもは無理だと思った。とても言えなかったけれど。隣家から言い争う声が聞こえた事は一度や二度ではなかったし、千歳が親と口を聞きたくないと言って菅原家で晩ご飯を食べる日もあった。

『バレー続けたいから大学に行くのに、高校のバレーを中途半端にして良い訳ねーべや!!』

珍しくも語気を荒げてそんなふうに言っていた千歳に、菅原は結局何の言葉もかけてやる事が出来なかった。最終的に、バレーも続けるし、志望校も変えないと言い切って、今回の期末テストで学年順位1桁を出すことを条件に親も進路指導の先生も言いくるめたのは、他でもない千歳自身だった。

「俺らも自分のことやんなきゃな」
「おう」
「そーだな」

千歳にばかり頼っている訳にはいかないし、かと言って千歳のギリギリ具合を1、2年に気を遣わせる訳にもいかない。千歳はそういうところを隠すのが上手いが、やはり時間をしっかり取らねばならないものである訳なので、バックアップは必要になってくる。コーチや武田先生とま話し合って、千歳の勉強時間の確保については、今回の合宿でも確保できるように話し合っていた。

「合宿中は結局どうすることになったって?」
「なんか猫又監督が毎晩先生方を飲みに連れ出すらしいから、その間、先生達の部屋を使うって事で話が纏まったらしい」
「おー、それなら集中できそうだな」
「マネの仕事も、千歳は晩飯は早番に割り振るって清水が」

それなら大丈夫そうだ、と胸を撫で下ろす。あとは、今回の期末にかかっている訳だ。

「学年1桁とか、ホントに考えられない・・・」
「千歳はやるって言ったらやるだろ」
「そうだけど・・・いやあ、ホントに凄いよ千歳は・・・」

俺には絶対無理だ、とため息を吐く旭に、大地も苦笑しながら同意する。菅原も成績は良い方ではあるが、流石に千歳ほどではない。しかも千歳は、英語だけなら学年トップを争うレベルなのだから。

「とにかく!千歳のことは3年と先生方以外には漏らさないこと!あと、自分達もきちんとした成績を出すこと!」
「はぁーい、主将」
「がんばる・・・」

締め直した大地に返事をして、無駄口をやめて勉強に戻った。



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