潜入っていうか拉致

「あ」

見覚えのある顔を見かけて、そう声を上げたが運の尽き、というやつだったと思う。



「おい及川・・・何してんだテメェ・・・」
「いやー、整骨院でばったり会って!連れてきちゃった☆」
「連れてきちゃった、じゃねェェェェ!!!!」

連行されるがまま付いてきた俺も悪い、っていうのは分かってるんだけど。近かったし、話の流れで金田一元気?って口を滑らせたもんだから、何か閃いたように顔を輝かせた及川にまんまと連れて来られてしまった、青葉城西高校・男子バレー部の部室。

「痛いよ岩ちゃん!!!」

入ってすぐのところに立っている俺を避けるように飛び出して行った青城のエースが、及川を蹴り飛ばした。ドゴッ!と遠慮のない音がして、サッと視線を逸らす。青い顔をした金田一に手招かれるまま奥へ入ると、大丈夫ですか?と顔を覗き込まれたので苦笑を返した。

「何もされてないですか?」
「何もって・・・大丈夫だよ」

及川は一体、青城でどんな立ち位置なのだと口の端を引きつらせる。こう言ったことでふざけそうにない金田一にこういう反応をされるということは、あの男は普段からかなり周りに手を焼かせているのだろう。苦労が目に見えるようで、低い位置にきた頭を思わず撫で撫でとすると、金田一が照れて俺から飛び退いた。

「及川はそういうとこホント信用ねーからな」
「そうですね」
「なんか思ったよりちっせーな」

金田一が退いたそばから、数人がドッと寄ってきて取り囲まれる。見たことのある顔触れなので、この間の練習試合に出ていた奴らな気がする。でも名前はパッと思い出せない。助けを求めるように視線を泳がせると、それに気付いた右側の赤みがかったやわらかな髪色のやつが、ああ、と声を上げた。

「俺、花巻な」
「ああ、ごめんね。俺、松川」
「…国見ッス」
「あと、あの怒ってるのが岩泉」

次々に名乗られたので、名乗り返すと「諏訪部な」とさっき声を上げたやつ…花巻が笑うので、ニッと笑い返す。こちらの面々は多少不躾であれこそすれ、俺の登場の仕方が登場の仕方であるから目を瞑ると、常識人の集まりのように見える。いや、及川だけが異常なのかもしれない。アレを青城のスタンダードだと考えるのは失礼というものだな、と認識を改めた。

「よろしく」

金田一も落ち着いたのか、戻ってきて5人で談笑する。どうやら今日はオフだったらしく、帰宅前にたまたま3年のレギュラー達と金田一と国見が顔を合わせて、そのまま部室でぐだぐたと駄弁っていたところに、及川に拉致された俺がやって来た、ということらしかった。オフの時、特に用事がないのに部室に集まってしまう気持ちは、俺にもとてもよく分かる。

「烏野のマネくん、岩ちゃんがいじめるよ〜」

蹴り飛ばされても元気に復活したらしい及川が、遅れて部室に入ってくる。泣き言を言いながら、のし、と背中からのしかかられて、重たいその身体を退けるように、頭を押し返して身体を離す。

「あれはスキンシップだろ?」

俺の言葉に、目の前の4人がブフッ!!と同時に吹き出した。びっくりして見上げると、全員がぷるぷると震えながら衝動を抑えていて、3秒後には堪えきれずにケタケタと笑い出した。

「スキンシップ・・・!」
「やばい、ウケる・・・腹痛え!!」
「わ、笑うな国見・・・ぶふっ、」
「っ、・・・くっ」

何かおかしなこと言ったか?と首を傾けると、肩の重みがズシッと増した。肩越しに見やると、先ほど距離をとったはずの及川の頭が、後ろから俺の肩に乗って震えていた。
くくく、と聞こえる声にコイツも声を押し殺して笑っているようで、重たいなと思っていると、岩泉がまた怒り顔で近づいて来たので、もう巻き込まれまいと力を込めて慌てて及川を引き渡した。

「及川、テメェ・・・!」
「なんで俺だけー!?」

また制裁をくらう及川に合掌しつつ、やっと笑いの波が引いてきたところの他のメンバーを見ながら、金田一は元気そうだな、と胸を撫で下ろした。この間いじめてしまった自覚があったので、少しばかり気掛かりだったのだ。及川に無理矢理で連れてこられた訳ではあるが、顔を見れたことは良かったなと思った。

「あ、そういえばさー。烏野の女マネ、めっちゃ美人じゃね?」
「俺も思いました!なんてーか、エロい!」
「わかる!」
「エロいってお前等…やらねーぞ」

ニシシ、と歯を見せて笑うと、ぱち、と瞬く目が4対、俺を取り囲んで考えるように黙り込む。

「なんか・・・」
「うん」
「ですね」
「あれだな」
「?」

一同うんうんと頷いて、一体何に納得しているのか分からず首を傾ける。

「お前、モテるだろ」
「いやそうでもない…?」
「溢れ出る包容力!優しさと気遣い!時々挟まれる少しあどけない仕草!」
「あどけないって何だ」
「タッパはねーけどな」
「女の子よりは大きいからいいんです…!お前らと一緒にするな!」
「うーん、打てば響くテンポの良さ」
「モテない訳がないな」

面白がられているのは分かっているが一々言い返していると、いつの間にやら距離を詰めた松川と花巻が俺の背やら腕やらに触れる。

「ちょ、なにっ」
「それでこの顔だもんな」
「さっき金田一も照れてたしな」
「笑うと可愛いのがトドメだよな」
「完全に同意するわ」
「ひっ、やめっ!」

手つきがだんだん怪しくなる。花巻に顎を持ち上げられて、松川が耳に口元を寄せて低い声で話す。腰骨のあたりに這わされた手にゾワッと背筋が震えて、2人を押し除けて金田一と国見の背に隠れる。

「なんなのお前ら!!!」

ぎゃんぎゃん文句を言いながら、頬に登った熱を誤魔化して、そのまま無害そうな1年ズの間に挟まり、2人の腕をホールドしながらにじりにじりと入り口を目指す。

「あれ、帰っちゃうの?」

呑気にそんな事を言う及川に、とうとう色々と限界が来た。

「〜〜〜っ!!お前らきらい!!」
「ええっ、酷いよマネくん〜俺まだ何もしてないじゃん」
「まだってなんだ!あほ!」
「罵倒が幼稚だな」
「テンパってるんだろうな」
「うるさっ、バ、、〜っ、もう帰る!!行くぞ!金田一!国見!」
「今度はマネくんがうちの子お持ち帰りするの?」
「護衛だバカ!」

もはや涙目になりながら青城の部室を後にする。少し離れたところまでズンズンと歩いて足を止めると、両サイドの1年生に大丈夫ですか、すみませんあの人達他人を揶揄うのが好きで、と心配されてしまった。よしよし、と何故か国見に頭を撫でられて、俺は情けない気持ちになりながら帰宅したのだった。



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