再戦を誓って

「なあ、お前らってもしかして、マネージャー連れてきてないの?」

後ろから掛けられた声に振り返ると、不思議そうに首を傾けた男が、クーラーボックスを肩に掛けながら立っていた。やわらかそうな色の髪が、ふわりと風に揺れる。

「あー、俺らマネージャーいねンだわ」

  なんだコイツ、選手・・・じゃないのか?

身長は170ちょっと、研磨よりは大きい。だけど身体つきが他の烏野の選手陣と比べると少しばかりひ弱で、全体的に小さく見える。

「そっか…じゃあ、ドリンクとか手伝うし、他にも何かあったら言ってよ。うちの可愛い女子マネージャーは貸せないけど、俺は使って構わないからさ」

俺、諏訪部千歳。マネージャーな。
そう言って笑う表情がやわらかい。ひょろっこい見た目と相まって、どことなく儚げな印象を受ける。顔面が整っているので、そういう男が好きな女子に死ぬほどモテそうだな、と黒尾は全然関係ない感想を抱いていた。なんか騙されやすそう、と思ってしまうあたりに自分の性格の悪さを自覚する。

「マジか、助かるわ!」

俺、黒尾鉄朗な。
よろしく、と笑って、クーラーボックスを持っている音駒1年のところへ歩いて行くその背を何となしに眺める。犬岡や芝山にも自己紹介をし合って、色々と勝手を聞いたりしているようだった。本当に音駒の手伝いをしてくれる気のようで、お人好しなのだなと分析する。そういう奴を相手にするのは、ちょっとばかし緊張するから、少し苦手かもしれない。

「お前らも選手なんだから、試合の時間は一秒足りとも見逃さない方が良いだろ」
「ありがとうございますッ!!」
「正直、めちゃくちゃ助かるっス!!」

ウォーミングアップの傍ら、テキパキとこちらのドリンクやタオルの準備をしてくれるのは、犬岡の言う通り正直めちゃくちゃ有り難い。今回の遠征はベンチ入りメンバーしか連れてきていないからこそ、ただでさえマネージャーのいないなか、そういった細々した事まで手を回すためには控えの選手の負担が大きい。せっかく遠征に来たのに雑用ばかりをさせて心苦しかったのが、諏訪部のおかげで控えの選手達も一緒に身体を動かす事ができていた。

「いや〜、すまんなあ」
「いえ、大したことないですよ」

お喋りの好きなウチの監督とも打ち解けているようで、練習の様子を眺めながら楽しげに談笑している。

「・・・コミュ力高いな」
「単純に、おじいちゃん子な感じがする」

アップを取りながらそう感想を呟くと、隣の研磨もぼそりと呟く。なるほど、あれは年寄り慣れというヤツか。



「ほい、今日のスコア」

試合中、烏野のベンチにいたのは美人の女子マネージャーの方で、諏訪部はコートのちょうど真ん中くらい、互いのベンチの間に座って、ジッと試合を見つめていた。試合が長引く中、ドリンクが無くなりそうになれば補充して近くまで持ってきて、芝山や犬岡を呼んで渡す。こちらのベンチに近づかないのは、練習試合とはいえ他校のミーティングを聞くのはマズイだろうと気を使ってくれているのは明白で、その気の回しようには少し申し訳なくなるくらいだった。
試合を見ながらずっと何かを書いているのは分かっていたが、それがまさかウチの分のスコアだとは思わず、パラパラとめくってみれば、3試合分丸々ありそうなそれに思わず瞳を丸くする。まさか、そんなことまでしてくれるとは思わなかったのだ。

「うわ、こんなことまでしてくれたの・・・ホントなんか、申し訳ないな」

ウチの分は清水がつけてるからさ、となんて事のないように言うが、今日初めて会った、たかだか練習試合の相手への対応としては至れり尽くせりすぎるだろう。思わず何か裏があるのかと勘繰ってしまうが、これは過ぎたお人好しで片のつくレベルの親切なのだろうか?"ただの良いヤツ"にあまり面識のない黒尾には、それを判断し兼ねてしまう。

「そう思うなら、またウチと練習試合やってくれよ。俺さ、あの"ゴミ捨て場の決戦"っていうのを、是非叶えたいなと思ってるんだよね」

にこにこと微笑むその顔が、誰かを思い浮かべたように優しげなものになる。その表情に嘘のないことが分かって、黒尾はフッと肩の力を抜いた。

「そうか・・・俺もさ、全国大会での"ゴミ捨て場の決戦"、実現させたいんだわ」

黒尾がバレーを始めるきっかけとなった猫又監督の、ずっと昔からの因縁の試合。自分達だけでは成し得ないそれも、相手側も叶えたいと思ってくれるのなら、きっと。

「なんか、お前とは気が合いそうだな」
「奇遇だな、俺もそう思ってた」

ニッと微笑みあって、諏訪部の首に腕を回す。研磨と対して変わらない身長は、頭を抱え込むのにちょうど良かった。

「わ、ヤメロヤメロ!汗くさいよお前!」
「うっせー、運動してンだから当たり前だろうが!!」

初っ端の、少し苦手かもという思いはすっかりどこかへ行ってしまった。普段友人を作らない研磨が友人を作ったことを揶揄っているはずだったのに、コレでは他人のことを言えない。けれど、もう気に入ってしまったのだから仕方がないな、とその低い頭をぐりぐりと撫でつけた。



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