きっと似ている

ライジェルは城の中にいくつかのお気に入りの場所を持っていた。ホグワーツ城は幾重にも複雑な魔法の掛けられた摩訶不思議な城で、隠し部屋や抜け道が沢山ある。有名なものも中にはあるが、彼女がよく行くのはその中でも取り分けひと気のない、殆どの人が知らない場所だった。

「やあ」
「・・・また貴方なの」

入学してから今まで、彼女がその場所で誰かに会った事はこれまで一度も無かった。それなのに、この男は余程城の中を駆け回っているのか、いつの間にかこの場所を見つけ出したようだった  ある日、いつものように彼女がそこを訪れると、どういうわけだか彼が既にそこに居たのである  一体何が面白いのか、このスリザリン嫌いで既に有名なグリフィンドール生は、あれからこうして屡々、彼女に関わってくるようになった。

「よく見つけたわね」
「城の中にはだいぶ詳しくなってきたからね」

彼がシリウスと共に走り回っているのは、ライジェルの視界にもよく入っていた。彼等は気が合うのか何かと二人、いや四人でいつも学内に巻き起こる問題の中心にいながら楽しそうにしている。おかげでまだ1年生なのに彼等はすっかり有名人だった。
ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックのスリザリン嫌いは純血主義者のマグル嫌い以上のものがある、とはスリザリン寮で囁かれる二人の噂話で、おかげで下級生達はとばっちりを受けない為に団体で行動したり、必要以上に寮から出ないなど自衛策を取っているほどだ。普段ならば差別する側 優位な立場 の己らが、いざそうやって虐げられる立場になってみると、途端に弱くなる。そういうものを傍観的に捉えているライジェルにとっては彼らのそんな行動は馬鹿馬鹿しく、いっそ憐れですらあった。

「ここはなかなか居心地が良いね」
「そう」

そんな大のスリザリン嫌いなはずの彼は、何故かライジェルにはこれといった嫌がらせをしてくることはなかった。付き纏われているのだから立派な嫌がらせだと言われてしまえばそれまでだが、彼女が特に相手をしなくてもいつも彼は彼なりに過ごしていたし、文句を言うことも無い。たまにこちらを観察するように眺めることがあるくらいで、互いが同じ場所を共有するだけだったから、だんだんとライジェルも彼の存在に慣れ始めていた。

「ねえ、シリウスとは会ったりしないのかい?」

だから、彼に意図を持った質問をされるだなんて思っていなくて、ライジェルはその言葉にすぐに反応が出来なかった。たっぷり5秒ほど沈黙を置いて、口を開く。

「貴方には関係のない事だわ」

実際、彼女とシリウスはたまに顔を合わせて話をしたり、勉強を見たりしている。シリウスに苦手な科目は無いはずだとライジェルは知っていたが、彼がそうして口実を作ってまで会いたいと思ってくれることが嬉しかった。けれど、そのシリウスの行動が周りに勘付かれるのは望んでいない。きっと、後々厄介なことになると分かっていた。だから、シリウスの友人  きっと唯一無二の友人になるだろう  相手にも、シラを切る。この、何でも見透かしているような賢い少年に、ライジェルがそれを明らかにするつもりがないと理解させる。

  そうだね」

ライジェルは他人に対して多くを語ることがない。必要のないことだと思っている。だから他人に理解されることなど無いし、理解されたいとも思わない。彼女の世界の中には"家族"だけがいて、それ以外は全て世界の外のこと。その考え方は、他人に対して上手く笑えなくなった幼い頃から今まで、ブレた事などない。
けれど  何故だろう。
この少年は、たくさんの言葉を交わさなくとも、どうしてだか、彼女の考えていることを理解している気がした。クシャクシャの髪と、眼鏡を通して此方を見る、好奇心を隠さない榛色の瞳が、けれど不快だと感じることはなかった。それが、とても不思議で  その感覚を、嫌だとは思わなかった。



ジェームズは、あれから彼女の跡をつけたりだとか、待ち伏せしたりだとか、他人にはとても言えない方法で  父から受け継いだ家宝を駆使してまで  彼女のいくつかのお気に入りの場所を探し出し、そして、会いに行ってみた。
特に会話をしたりだとか、コミュニケーションをとろうとした訳ではなかった。本気で嫌がられてしまえば近づくことも儘ならなくなると直感で分かっていたし、彼女がジェームズに興味などない事も知っていた。彼女が興味を持つと分かったのは、影ながら可愛がっている弟だけだったけれど、それこそジェームズの身近な人物だったから、その関係性を探るのは容易だった。
シリウスは彼女が側にいる時はスリザリンに手を出さないし、彼女とその取り巻きをそれとなく避けている。けれど視界の端では、つまらなそうに必要最低限の会話を周りと交わす彼女のことをこっそりと見つめていたりする。シリウスは素直な性ではないし、大のスリザリン嫌いを自他共に認める手前、姉にそう易々と他人の前で近付いたりできないのだろうと思っていたけれど、彼女本人を揺さぶってみて  それは100%の答えでは無いと知る。
この姉弟の関係は、きっともっと複雑だ  スリザリンとグリフィンドール、純血主義者達と、そうではない人々  そして、世界を包みつつある闇の勢力  好きだの嫌いだの、合うだの合わないだの、そういうちっぽけなものなんかではなく  大きな力が、大きな動きが、彼女達をただの仲の良い姉弟のままではいさせてくれないのだろう。
それはとても悲しいことで、とても切ないことなのかもしれないと、ジェームズは思う。大切な親友と、なんだか憎めないその姉のそういう現状を見て、自分はどうするべきなのか  何ができるのか  ぼんやりとそんなことを考えはじめたのは、そんな、入学して一年も経たない頃のことだった。



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