否応なく

スリザリンの中でも、特に影響力を持った連中というのがいる。それは、純血名家と呼ばれる聖28一族に数えられる一族の中でも更に一握りの、特別な家系に生を受けた連中だ。マルフォイ、レストレンジ、そして、ブラック。彼等は純血の中でも特に決定権を持つ名家中の名家、そんな親達の醜い権力構図は、未だ幼い子供達にも影響を与えていた。

「ライジェル」
「あら、ルシウス。ご機嫌よう」

ルシウス・マルフォイは、いま己の隣に座ったこのライジェル・ブラックという女が好きではなかった。四つも年下のこの女は、最高学年かつその権力から事実上スリザリンを牛耳るルシウスに全くの媚びも諂いもなく、かといってその家系の権力から他のスリザリン生を率いる気がある訳でもなく、殆ど傍観者のように、ルシウスや他のスリザリン生がグリフィンドールをはじめとする他寮生を嘲笑うのを無感情に眺めているような女だった。だというのに、その孤高さが逆に好感を呼ぶのか、スリザリンの"氷の女王"などと影で呼ばれ崇められたりしている。真にまとめあげている筈のルシウスさえ、そんな異名を付けられた事など無いのに!

「今年は弟君が入学するそうじゃないか」
「ええ」
「何でも御家に反発するほどの問題児だとか。姉として君も大変だろう」
「そうね」

態々、嫌味を聞かせる為に隣に座らせたにも関わらず、彼女は取り付く島もない。なんなら此方へ視線もくれない。この、お前などには興味の欠片も無いのだというような彼女の態度が、ルシウスは何よりも気に食わなかった。この氷のような澄ました表情を歪めてやりたい。色の無いその灰色の瞳に、感情を載せさせてみたかった。

「あのシリウスが大人しくスリザリンに入るとは思えな「ルシウス、始まるわ」・・・ああ、」

更に言葉を紡ごうとしたルシウスの袖を引くようにして、彼女は彼を諌める。ちらりと一瞬、此方を見上げた彼女の視線だけで何故だか言葉を呑んでしまう己自身が、ルシウスは彼女よりも何よりも、一番嫌いなのだ。



「グリフィンドーーールッッ!!!」

静寂を切り裂くように響き渡った寮名は、やはりというか何というか、彼が兼ねてから願っていたものだった。スリザリンにだけは行きたくない。今朝、家を出る前にそう言って両親を激怒させた彼は、その主張の通り、新たな道を己自身の手で掴み取ったと言えよう。これを姉として祝ってやれないほどの狭量さは彼女には無かった。無音の広間で、誰もが呆然とその結果に固まる中、無表情にその手のひらを鳴らしたのは彼女だけだった。それから何人か、そして教授陣がつられるように僅かに音を鳴らして、気を取り直したマグゴナガル女史が組み分けを再開させる。

  ブラック家はとんだ恥晒しをお抱えで」
「シリウスは仕方がないわ。あの状態でスリザリンに入ったら、それこそ暴れ倒しそうだもの。これで良かったのよ」

そんな驚きの組み分けから動けずにいたルシウスは、絞り出したかのような嫌味を彼女に吐き出すが、それもつかみ所の無いように流されてしまった。彼女の発言は、良くも悪くも純血を軽んじるようにも、重んじるようにも取れないところがやりにくいのである。

「お母様に手紙を書かないといけないわね・・・」

彼女の独り言のような言葉だけが、ぽつりと辺りに落ちていた。



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