君を咬み殺す3 | ナノ




遥か彼方の記憶
 その男は、いつも通り上等な肘掛け椅子に腰掛け、自分を待っていた。


『……やあ、マイラ。今日はわざわざすまないな』
『呼び出しとは、いったい何の用事だ?ジョット』
『お前に渡したい物がある』
 微かに笑みを浮かべたその顔に、なんとなく奇妙な予感はした。
 嫌な、というわけではないが、なんとなく、胸がざわつくような。

『……ボンゴレファミリーの裏役、闇で全てを支えてくれたヴィーラファミリー初代ボスに……いや、1人の親友として、これを』
『……これは』

 優雅な仕草で差し出された手の平、その上できらりと光る、小さなリング。

『ボンゴレリングと同じ、精製度A以上のリング……貴重な大空属性だ』
『……お前、どこでこれを』
『気にするな』

 にこり、否にやりと笑うボンゴレボス。

『俺とお前を繋ぐリングだ。ただの戦闘用だけでなく、他の形でも何かの役に立つだろう』
『最高に気持ち悪い言い方だな』
『なんだ、アラウディにでも言わせれば良かったか』

 思わず、その場でずるっと滑りかけた。
 かろうじて足をとどめたのは、ボスとしてのプライドだ。むしろ動揺を露わにしなかった自分を誰かに褒めて欲しい。

『……何の話かな、ジョット』
『お前にもあるように、俺にも超直感が宿っているのを忘れたのか?』
『……俺のはそんな上等な物じゃない』
『まあ、そんな物がなくてもお前達の関係はもろわかりだがな』
『ちょっと待て、ジョット!』
『冗談だ』

 にやり、言い放つ言葉にこちらはユーモアの欠片も感じられないのだからやめてほしい。

『……本当にやめてくれ。特に弟の耳に入ったら……』
『ふふ、もう片方の目も潰されるだろうな』
『まったく笑い事じゃないからな』

 我が弟ながら、本当に碌でもない精神をしているのだ。病んでいる、と形容すればいいのか。

 左目を覆う白い眼帯に触れ、マイラは小さくため息をついた。その隙にぐいっと手を引かれ、拳の中に冷たいものが滑りこまされる。

『……ジョット、』
『残念だが返品は受け付けないぞ、マイラ』

 思わず文句を言いかけた自分の前で、金の瞳を揺らした相手は僅かに目を細め、ゆるりと掴めない笑みを浮かべた。





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