語れない、語らないのは
「、雛香」
「どういうことだよ……雲雀」
雛乃が息を呑み名を呼ぶ声が聞こえたが、今の雛香の目に映るのは、ただ1人だけだった。
黒いスーツに身を包む、切れ長の黒い瞳の持ち主、ただその人物のみ。
「……どういうことだよ……俺は、雛乃を庇って死んだんじゃなかったのか」
「雛香、それはっ、」
「なんで嘘をついたんだよ、雲雀ッ!」
鼓膜を打つ鋭い声が、薄暗い廊下に響き渡る。
「雛香、それには理由が、」
「宮野雛乃、君は黙ってて」
焦った表情で口を開いた雛乃の前、無表情に遮り一歩踏み出す雲雀の姿。
「雲雀……」
雲雀は、口を開かない。
あれほど数多の感情を浮かべてみせたその黒い瞳から、今、何ひとつ読み取ることができない。
「……答えろよ、雲雀ッ!」
ダンッ!!
鈍い衝撃が、壁を大きく震わせた。