君を咬み殺す3 | ナノ




返らない過去を追い求め
 憎めばいい。

 自ら告げた言葉に、なぜか、雲雀は自嘲するように目元を歪めた。

「……は……」
「宮野雛乃……君は、どうして僕を恨まない」

 淡々と並べられる、言葉。

「君には、僕を憎む権利がある」
「雲雀さんッ!」

 叫ぶ。
 襟元を掴む手を振り払う。
 時間帯も場所も何もかも忘れ、叫んでいた。

「……君」
「なんで……なぜ、そんなことを言うんですか」
「なぜって」
「憎みたかった、」
「……、」
「全て、あなたの所為にしたかった……!」

 切れ長の黒い瞳が、大きく見開かれる。


「……あなたを、ただ憎めたのなら……」


 兄を、誰より大切な雛香を、ただ奪った存在だと思えたのなら。


「……そうしたら、僕は楽だったのに……」


 そうすれば、こんなにも。

 突き放すことも歩み寄ることもできない、
 そんな間でぐらぐらゆらゆらと、いつまでも惑うことも揺らぐことも、10年前から来た雛香に無意味な嘘をつくことも、

 きっと、無かったのに。


 許せない。酷い。羨ましい。
 でも、根強く残ったものは。

 ごめんなさい。
 僕のせいで。
 僕が引きとめなかったら。
 雛香をあなたの元に見送っていたのなら。

 そうしていたのなら。

 雛香は死の間際まで、少なくとも、もっと長く過ごせたはずだ。
 惹かれ、そして自らも惹き続けた、雲雀恭弥との日々を。


 雛香の気持ちなんてわかっていた。
 だって、双子なのだから。

 それを、自分が引き止めたりしなければ。
 もう少しだけ自分を甘やかしてほしいだなんて、そんな子供っぽい独占欲に、いつまでも浸っていなかったのなら。
 そうしたら。そうしたのなら、きっと。


『……彼は最後まで、君を守ることだけを思っていた』


 ねえ、嘘でしょう、雲雀さん。
 兄は確かに自分をいつまでも大切にしてくれたけれど、でも、
 最後までその目で追い続けていたのは、紛れもなく。


「……ごめんなさい……雲雀さん……っ」



 あなただけ、だったのだから。





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