返らない過去を追い求め
憎めばいい。
自ら告げた言葉に、なぜか、雲雀は自嘲するように目元を歪めた。
「……は……」
「宮野雛乃……君は、どうして僕を恨まない」
淡々と並べられる、言葉。
「君には、僕を憎む権利がある」
「雲雀さんッ!」
叫ぶ。
襟元を掴む手を振り払う。
時間帯も場所も何もかも忘れ、叫んでいた。
「……君」
「なんで……なぜ、そんなことを言うんですか」
「なぜって」
「憎みたかった、」
「……、」
「全て、あなたの所為にしたかった……!」
切れ長の黒い瞳が、大きく見開かれる。
「……あなたを、ただ憎めたのなら……」
兄を、誰より大切な雛香を、ただ奪った存在だと思えたのなら。
「……そうしたら、僕は楽だったのに……」
そうすれば、こんなにも。
突き放すことも歩み寄ることもできない、
そんな間でぐらぐらゆらゆらと、いつまでも惑うことも揺らぐことも、10年前から来た雛香に無意味な嘘をつくことも、
きっと、無かったのに。
許せない。酷い。羨ましい。
でも、根強く残ったものは。
ごめんなさい。
僕のせいで。
僕が引きとめなかったら。
雛香をあなたの元に見送っていたのなら。
そうしていたのなら。
雛香は死の間際まで、少なくとも、もっと長く過ごせたはずだ。
惹かれ、そして自らも惹き続けた、雲雀恭弥との日々を。
雛香の気持ちなんてわかっていた。
だって、双子なのだから。
それを、自分が引き止めたりしなければ。
もう少しだけ自分を甘やかしてほしいだなんて、そんな子供っぽい独占欲に、いつまでも浸っていなかったのなら。
そうしたら。そうしたのなら、きっと。
『……彼は最後まで、君を守ることだけを思っていた』
ねえ、嘘でしょう、雲雀さん。
兄は確かに自分をいつまでも大切にしてくれたけれど、でも、
最後までその目で追い続けていたのは、紛れもなく。
「……ごめんなさい……雲雀さん……っ」
あなただけ、だったのだから。