宮野雛香VS.γ(2)
「残念だったな、数撃ちゃ当たるってもんじゃあ……」
帯電しナイフを弾き落としたγが、やれやれと頬をかいた、
その、刹那。
突如その首元から、鮮血が噴き出した。
「?!」
目を見開いたγの真後ろ、
木の幹に深々と突き刺さる、白いナイフの柄から伸びているのは。
「……ワイヤー、か?」
首元を押さえ、γが呟く。
よろめいたその白い服を染め上げるは、対照的な赤の鮮血。
「……なる、ほどな……頸動脈を狙ってくるとは…」
呟き、顔を上げたγの前、
銃口をかまえる少年の姿。
「――バイバイ」
次の瞬間、数多の銃声が響き渡った。
***
(……手応え、あった、な……)
肩で息をしながら、雛香はふっと口元を緩めた。
「……さんきゅ、ベル」
呟き、右手に絡ませたワイヤーを引っ張る。
カランカラン、という音とともに、木から抜け落ちる白いナイフ。
足元に引き寄せたそれを拾い上げる。
少し前、自分のナイフと交換した(というか勝手にされていた)、ベルの物だ。
「……お前のおかげだ」
刃に軽く口付け、懐にしまう。
相手の様子を窺おうと、硝煙の消えるその向こうへ目を上げた、
瞬間。
「ッ!!」
目の前を、
何かが、
***
「……フー、こりゃ危なかったな」
聞こえる。
どこか遠くで、声が聞こえる。
(な……んで……)
確実に、当てたはずだ。
首も深く、切ったはず……。
「まだ生きてるだろ?」
ふいにすぐ側で、声が響いた。
風を切り裂く、鋭い音。
ヤバい。
脳内で警鐘が鳴り喚いたが、動けなかった。
「うぁああっ!!」
「さあて」
意識が遠ざかる。目の前が暗くなる。
だが次の瞬間、身体が浮かび上がる感覚とともに、
再び、激痛が全身を貫いた。
「あ……ぐ……」
「こっちの出血もなかなかヤバいんでね、早めに吐いてもらわないとな」
首元を掴む冷たい手の感触。
揺らめく細い視界に、男の目が見えた。
こちらを見据えるその瞳には、情の欠片もない。平淡な、冷めた色。
「ぐっ……」
首が絞まる。
息が漏れる。
呼吸ができない。苦しい。
「さて、まずひとつ教えてもらおうか。宮野雛香」
必死で握りしめた手は、虚空を掴んだ。持っていたはずの銃が、無い。
さっき、弾き飛ばされだのか。
「なぜお前は、生きている?」
衝撃。
背中から全身を伝わる激痛に、息が抜ける。
吐く。
血溜まりが広がる。
(……り、)
脳裏に瞬いた黒髪が、
閃いて、消えた。