君を咬み殺す3 | ナノ




炎とリングとマシュマロと
『聞け!!』

 過去に戻るための第1ミッションとして、守護者を集めるための戦闘力アップを望むツナ達。
 指導を快く引き受けてくれた雛乃とは異なり、冷淡に拒絶したラル・ミルチに、ツナを始め獄寺たち一向は困り果てていたのだが――。


『最低限の戦闘知識と技術の叩き込みは、オレも手伝ってやる』


 調理場に集っていた全員に、
 どういう風の吹き回しか、突如現れた彼女はそう告げた。


***




「……匣を開ける?」

 さっそく連れてこられたトレーニングルーム、
 にこにこ微笑む雛乃と怒ったような真顔のラルという正反対もいいとこな2人の表情に、びくつきながらもツナが疑問を示した。

「そうだ」
「でも匣って……」
「リングの炎が無いとダメなんだろ?」
「その通り」

 眉を下げたツナと顔を見合わせ、訝しげに獄寺が問う。

「この時代はお前達の生きていた10年前と違い、リングに炎を灯し匣を開けなければ戦いにならない」
 きっぱりと断言したラルが、ゴーグルを掛けた。

「詳しく説明してやるから、よく聞け」

***




 のち、数十分後。

「……ええと、ひとつもわかんねーんスけど」
「わかれ」
「よしラル、落ち着こう」

 ひととおり匣とリングの説明を終えたラルに、山本が頭をかきながらなぜか照れくさそうに笑う。
 真顔で山本に近づき殴りかけたラルを、頬に汗をつたらせた雛乃がギリギリで止めにかかった。

「まあ、こればっかりは実践が全て、かな?」
「とりあえず始めるぞ」

 ラルがすっと目を細め、雛乃が真剣な表情に変わる。
 急に変わった2人の雰囲気に、ツナ達は目をしばたきますます戸惑いを顔に浮かべた。


「……まずは、リングに炎を灯してみろ」


***




「白蘭様」

 遠く離れた、イタリアの地で。

「お、正チャンからの連絡だったりする?」
「あ、いえ……違います」
 高層ビルの最上階。
 白い隊員服に身を包んだ部下に、柔らかな笑みを浮かべマシュマロをつまむ、1人の青年。

「そっかー。と、なるとタイクツだよねー、レオ君」
「は、はぁ……」
「メシでも食いに行く?」
「えっ?!そ、そんな恐れ多い!」

 とんでもない申し出に、ホワイトスペル第6部隊・レオナルド・リッピは慌てた表情で首を振る。

「うーん、じらすよなー。早く会いたいのに」
 一方の青年は、ただマシュマロを口に運ぶ。

「並盛中学2年A組、沢田綱吉クン」
「さ、さわだ……?」
「うん」
 部下の困惑を気にかける様子もなく、おもむろに立ち上がった白蘭は大きく伸びをした。

「まあ、本命は違うんだけどね」
「本命……?」
「そー」

 ひょい、と彼は机の上のマシュマロに手を伸ばす。


「……宮野、雛香」


 ねえ、君はいつ現れるの。

 柔らかく白い砂糖菓子は、弾かれた指から悪戯に床に落下する。
 何の音も無く、ただ静かに、なめらかに、
 その存在すら無い物とするかのように。



「……早く、会いに来なよ」


 待ってるから。
 ねえ、雛香ちゃん。





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