さまよい続ける想い
「……もーいや」
ふてくされてみても、当然何も変わらない。
体操座りで足を抱え、雛香はふくれっつらでその上に顎をのせた。
周囲を覆うは緑の層。
うんざりを通り越して目に馴染んできてしまった、自分の感覚が恐ろしい。
「……雛乃ー……」
会いてえよ、と横に倒れる。さすがにこんなに離れていたことはない。深刻な弟不足である。
膝を抱えてゴロゴロと地を転がるその姿は、端目から見たらかなり引かれそうな光景である。が、幸か不幸か周りには誰もいない。
というより、この森をさまよい続けて早幾日か、ひとっこ1人会わないのだ。
「……もーいや、なんで俺こんなに方向音痴……」
辛すぎだろ。
ため息をつき、横に転がったまま目を閉じたところで、
雛香。
ふわり、呆れたような声音が、
「……ひばっ、」
ガバッと起き上がり、固まる。
辺りは静まり返る森でしかなく、当然、あの暴君がいるはずもなくて、
そう、
あの艶やかな黒髪もつり気味の細い瞳も、無造作に掛けられた学ランも鈍く光る銀のトンファーも、
自分に向けられるあの穏やかな笑みも息が止まるほど強い視線も、
「……あー、くそ……」
目の上を手で覆い、呻く。
ダメだ、我ながらこんなにも女々しいとは思わなかった。
「……くっそ……」
こんな思いをするくらいなら。
雛乃だけを思い続けていた方が、ずっと楽に違いなかったのに。
「……バカ雲雀」
助けに、来いよ。