君を咬み殺す3 | ナノ




さまよい続ける想い
「……もーいや」

 ふてくされてみても、当然何も変わらない。
 体操座りで足を抱え、雛香はふくれっつらでその上に顎をのせた。

 周囲を覆うは緑の層。
 うんざりを通り越して目に馴染んできてしまった、自分の感覚が恐ろしい。

「……雛乃ー……」

 会いてえよ、と横に倒れる。さすがにこんなに離れていたことはない。深刻な弟不足である。
 膝を抱えてゴロゴロと地を転がるその姿は、端目から見たらかなり引かれそうな光景である。が、幸か不幸か周りには誰もいない。
 というより、この森をさまよい続けて早幾日か、ひとっこ1人会わないのだ。

「……もーいや、なんで俺こんなに方向音痴……」
 辛すぎだろ。
 ため息をつき、横に転がったまま目を閉じたところで、


 雛香。


 ふわり、呆れたような声音が、

「……ひばっ、」

 ガバッと起き上がり、固まる。
 辺りは静まり返る森でしかなく、当然、あの暴君がいるはずもなくて、

 そう、

 あの艶やかな黒髪もつり気味の細い瞳も、無造作に掛けられた学ランも鈍く光る銀のトンファーも、
 自分に向けられるあの穏やかな笑みも息が止まるほど強い視線も、

「……あー、くそ……」

 目の上を手で覆い、呻く。
 ダメだ、我ながらこんなにも女々しいとは思わなかった。

「……くっそ……」
 こんな思いをするくらいなら。

 雛乃だけを思い続けていた方が、ずっと楽に違いなかったのに。


「……バカ雲雀」


 助けに、来いよ。





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