君を咬み殺す3 | ナノ




過ぎた後悔を繋げるために
「……ぐ……」
 呻き、痛みをこらえ起き上がる。
 腕の内、唯一守れた小さな身体に気付き、獄寺は顔を歪めた。
「イーピンしか、救えねぇとは……くそ……」
「はは、ゴメンね……僕もやきが回ったみたい」
「!」

 目の前、たなびく煙の向こうから現れたのは。

「雛乃……!」
「げほっ、げほ……ゴメン、もうちょっと早く来れてれば……」

 咳き込みながら立ち上がる、その胸元には抱きかかえられたハルの姿。
 そして、雛乃の足元に横たわる山本は、意識が無いながらもその腕にしっかりと幼いランボを抱いていた。

「……あんの野球バカ、わけもわからず庇いやがったのか……」
「……ふふ、山本はいつの時代も変わらないね」

 小さく笑い、そっとハルを横たえた雛乃が、
 瞬間、鋭い目を頭上に向ける。
 つられるようにして顔をあげた獄寺の上、空に浮かび歓喜の声をあげる黒い敵。

「やりぃ!刀のやつもぶっ倒したぜ!……て、お前は誰だ?!」
「名乗る義理はないなあ……で、獄寺」
「っ、は?何だよ?!」
「今、ボンゴレリング持ってるんでしょ?」
「……はぁ?!」

 明らかに今されるべきではない問いかけに、獄寺は唖然と口を開ける。

「あははっ、獄寺の間抜け面っ!」
「てっめぇ……!10年経って性格悪くなってねえか?!」
「仲間割れかよ?!へへっ、2人とも殺してやるぜ!!」

 思わず怒鳴れば、空から降るのは敵の声。
 焦燥の色を浮かべ空を見上げた獄寺と対照的に、雛乃は静かに口を開いた。
 あくまで静かに、どこまでも淡々とした、真顔で。

「……山本にどこまで教えてもらったか知らないけど、匣を開けるために必要なのはリングの炎だ」
「だからてめえっ!今んなこと、」
「僕が一撃は凌いであげる。後は獄寺、その匣とボンゴレリングを使って君が相手を倒すんだ」
「はああ?!何言ってんだよ!!」

 ついに頭がいかれたのか、と困惑を顔いっぱいに表す獄寺に、雛乃はスッと目を細めた。
 鋭利な光を宿す、その瞳を。

「……それくらいできなくちゃ、これからの闘いには勝てないから……」
「は?!」

 呟かれた雛乃の言葉は小さすぎて、獄寺の耳に届かない。
 聞き返した獄寺の上、 
 鎌を振り下ろす、敵の姿。

「死にな!」
「!なっ、」
「覚悟、だよ」

 焦り息を呑む獄寺に、雛乃が今度ははっきり告げる。
 迫る炎に微塵も動揺を見せず、雛乃は懐からすばやく出した匣に、右指のリングを嵌め込んだ。
 瞬間、

 弾ける、藍色の炎。


「その覚悟が、自身を……皆を、守る」

 
 眩く光る青色を背景に、息を呑むほど悲しく微笑んだ雛乃は、
 獄寺を真っ直ぐに見つめたまま、そう言った。


「……君は、守りぬくんだよ、獄寺」



 僕のように失う、その前に。





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