消えない影を背負って
「……そうか、本国のボンゴレはそこまでダメージを受けてんだな……」
「ああ……」
早朝。
昨夜の混乱を経て、食堂に集まるのはリボーンと大人3人。
「俺は今から、単独で白蘭を獲る」
「無茶言わないで、ラル」
「止めるな雛乃……門外顧問への報告は、お前に任せる」
「ラル!」
「今はツナ達におまえの力が必要なんだがな。考え直すつもりはねーのか」
「お前と山本、雛乃がいれば充分だぜ。断る」
「……コロネロは帰ってこないよ」
「!」
平淡な声で告げられた言葉に、ラル・ミルチは勢いよく振り返る。
「雛乃、お前……っ」
「雛香と同じだ」
淡々と、雛乃はテーブルに視線を落としたまま呟いた。
「死者は……帰らない」
「……っ」
一瞬、剣呑な目をしたラルは、しかし口を噤むと自動ドアを開け外へ出た。
その目の前、場の空気に入れず立ち尽くしていたツナと獄寺には目もくれず。
「あっ……」
「よ、よお……」
慌てて2人が口を開くが、彼女は無言で去っていった。
(死者は……帰らない)
呆然と、ツナは心の内で雛乃の言葉を繰り返す。
頭に浮かぶのは、黒い瞳を細めて笑う、少年の顔。
本当に、雛香くんは……。
***
「とりあえず守護者の中でも即戦力……つまり、雲雀恭弥を連れてくるのがベストだな」
「雲雀さんを……」
「でもどこにいるんすか?」
「それがよくわかんねーんだ」
「雲雀さんは……あれ以来、行方を眩ませてるから」
「あれ以来……?」
目をそらし呟いた雛乃に、ツナが怪訝そうに首を傾ける。
だが、それを遮るように山本が朗らかな声をあげた。
「ま、なんか手がかりあるだろ!行ってみっか、な!」
「僕はちょっと用があるから一緒に行けないけど……ごめんね」
雛乃が申し訳なさそうに微笑む。
久々に見た彼らしい明るい顔に、ツナはほっと息を漏らした。
***
「……雛乃」
騒々しい3人が消え、急に静まり返った部屋にリボーンの声が響き渡る。
「何?」
「おめー、なんか隠してんな」
小さなヒットマンの言葉に、ぴく、と肩を動かす雛乃。
「……ほんと、やだなあ。昔、雛香がリボーンには何でも筒抜けだってこぼしてたの思い出すよ」
「ごまかそうとして饒舌になるところ、雛香とソックリだな」
淡々と言葉を重ねるリボーンに、雛乃はただ俯く。
10年の月日を経た彼は、すぐに泣きそうな表情はしない。
ただ、苦笑いを浮かべるだけ。
痛々しい、大切な物を失った人間の笑みを。
「……僕は、ただ思い続けているだけだよ」
もう会えない、愛しい片割れのことを。