ギリギリの選択肢
「……これが……!」
幻騎士を退け、スパナとともに床に降り立ったツナは、息を呑んだ。
その足元、ホログラムでできたリボーンもまた、目の前の装置に視線を上げる。
このミルフィオーレの基地へ乗り込んだ最終目的――白い円形を描いた、奇妙な装置を。
「……まさか、あの幻騎士を倒すとは計算外だった」
「!」
不意打ちで聞こえた声に、ツナはパッと振り返った。
その前、足音もなく歩み寄るのは――
「入江……正一!!」
「まずは拳を下ろしてもらおう。話はそれからだ」
途端にXグローブに炎を宿すツナへ、入江は淡々と言い放つ。
その背後、進み出るのは見覚えのある2つの人影。
「チェルベッロ……?!」
「聞こえなかったか?下手に動けば彼らは死ぬぞ」
少し前のヴァリアーとの闘い、そこで確かに見た彼女らの姿に、ツナは困惑し眉を寄せる。
だが入江は構うことなく、真横へと視線を向けた。
「今は睡眠ガスだが、必要があればすぐに毒ガスに切り替える」
「!みんな……!」
目を見開くツナの前、
巨大なカプセルに閉じ込められ、動かない仲間の姿。
「くっ……!」
「……よし、いいだろう」
悔しげに拳を下ろすツナを見て、振り向いた入江が合図を送る。頷いたチェルベッロが、手元の機器を動かした。
すると、
「……う、うう……」
「最悪だ……よりによって、10代目の首を絞める夢を見るだなんてよ……」
「う……僕だって、いくら雛香が好きだからって絞殺はさずかにしないのに……まさかツナの首を絞めるなんて……」
「……10年前も変わらず、寝起きから絶好調のようだな、雛乃……」
「え?!……って、誰?!」
「傷口に響くってのアホ宮野……ッ、10代目?!」
途端、動き出す仲間の姿。
いつもと変わりなく騒ぎ出すその様子に、ツナは微かに安堵のため息をつく。
だがそこで、口々に騒ぎ出す面子の中、頼りにしていた雛乃、そして雲雀が10年前の姿に戻っていることに気が付いた。
「……雛香?」
「……っ、あ……ひ、ばり?」
「君……」
ゆっくり体を起こした雲雀の足元、倒れ込んでいた雛香が目を開ける。
もぞもぞと怠そうに、しかし意識はあるらしい彼の姿に、雲雀はほうっと息を吐いた。
そのまま、ぼんやり目元をこする雛香の腰に、腕を回す。
「っ?は……え、え?」
ぐいっと胸元に小柄な体を引き寄せれば、まだ未覚醒の真っ只中なのか、混乱した声だけが返ってくる。
それには完全に無視を決めこんで、雲雀はこれ幸いとばかりに強く雛香を抱きしめた。
「は……は?何?」
「――抵抗しても無駄さ」
困惑に目をしばたく雛香のもとへ、冷ややかな声が降り注ぐ。
「君達のリングと匣兵器は、全て没収した」
「「!!なっ……!」」
何人かが絶望に声を詰まらせる中、入江から引き継いだチェルベッロが、さらに言葉を重ねた。
否、言葉などではない。それは――絶対の、命令。
「沢田綱吉、大空のリングを渡しなさい。さもなくば守護者、及び門外顧問達を毒殺します」
「3秒以内に従わなければ、全滅は免れない」
「!!そんな、ちょっと待ってよ!!」
とんでもない言葉に、ツナは慌てて声をあげた。
だがそれはあっさり一蹴され、黒光りする銃口だけが向けられる。
「3」
「ッ!10代目!!オレ達に構わず、そいつをやってください!!」
「で……でも、そんなことできるわけ……!」
「2」
「ツナ!なんかよくわかんないけど、僕は雛香だけ助かればいいからなんとでもして!!」
「さらに無茶なこと言わないでよ雛乃!!」
「てめぇは黙ってろ、空気読めねぇブラコンが!!」
この後に及んでまさかの茶番を披露する雛乃に、ツナと獄寺が同時に口元を引き攣らせた。
だが、そんな無茶振りで何かが変わるわけもなく――
「1」
「……ッ!ツナ!!やれ!」
「雛香くん、でも……!」
全員が一斉に息を呑んだ、
瞬間、
銃声が、轟いだ。