傷という名の証を
その言葉を、何よりも恐れていた。
「――ごめん、」
肩を押した雛香が、なぜか辛そうに顔を歪める。
「俺は、」
どくり、心臓が嫌な音を立てる。
一気に全身が冷えた気がして、瞬間、
「!」
「言うな」
乱暴に口付けていた。
「……っ、だ、からっ、」
――わかっている。
抵抗するように雛香が肩を押す。怪我をしている腕が痛まないはずはないだろうに。
口に出さない代わりに腰を抱く。もう片方の手で後頭部を無理やり引いて、上向かせた。
「……っ、やと、やめろ、これ以上やるなら、」
「わかってる」
今度はちゃんと口に出た。
雛香が驚いたように目を見開く。
上向かせた顔は、自分より遥かに下の位置にあった。引き寄せた体も、随分小さい。小柄、というより華奢だ。男にこんな感想を抱くのもなんだが。生来のもの、というのもあるのだろう。
そしてこの細い体に、彼は数多の傷を受けている。
――ごめん、俺は。
その先、紡がれるはずだった名前――あの、男に。
「……隼人?」
「わかってんだよ」
雛香の目が、心配そうに揺れる。
バカだと思う。本当に報われない。
もう少しで届きそうな、そう思った瞬間に、こうも距離を感じさせられる。
自分はこんなにも、そう修業で付けられた傷にすら、こうもドス黒い、嫉妬の感情を覚えてしまうのに。
「……だから、俺にもひとつくらい、付けさせろ」
「は?何を、」
言いかけた首筋に、
噛みつく。
ひくり、と震えた喉元に、獄寺はただ目を閉じ強く歯を立てた。
――俺は、雲雀が……
その言葉の先を、わかっていながら、何よりも恐れている。