君を咬み殺す3 | ナノ




傷という名の証を
 その言葉を、何よりも恐れていた。



「――ごめん、」
 肩を押した雛香が、なぜか辛そうに顔を歪める。

「俺は、」

 どくり、心臓が嫌な音を立てる。
 一気に全身が冷えた気がして、瞬間、

「!」
「言うな」

 乱暴に口付けていた。



「……っ、だ、からっ、」
 ――わかっている。

 抵抗するように雛香が肩を押す。怪我をしている腕が痛まないはずはないだろうに。
 口に出さない代わりに腰を抱く。もう片方の手で後頭部を無理やり引いて、上向かせた。

「……っ、やと、やめろ、これ以上やるなら、」
「わかってる」

 今度はちゃんと口に出た。
 雛香が驚いたように目を見開く。

 上向かせた顔は、自分より遥かに下の位置にあった。引き寄せた体も、随分小さい。小柄、というより華奢だ。男にこんな感想を抱くのもなんだが。生来のもの、というのもあるのだろう。
 そしてこの細い体に、彼は数多の傷を受けている。

 ――ごめん、俺は。

 その先、紡がれるはずだった名前――あの、男に。


「……隼人?」
「わかってんだよ」
 雛香の目が、心配そうに揺れる。
 バカだと思う。本当に報われない。
 もう少しで届きそうな、そう思った瞬間に、こうも距離を感じさせられる。
 自分はこんなにも、そう修業で付けられた傷にすら、こうもドス黒い、嫉妬の感情を覚えてしまうのに。

「……だから、俺にもひとつくらい、付けさせろ」
「は?何を、」
 言いかけた首筋に、

 噛みつく。

 ひくり、と震えた喉元に、獄寺はただ目を閉じ強く歯を立てた。




 ――俺は、雲雀が……


 その言葉の先を、わかっていながら、何よりも恐れている。





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