予想外の出くわし
わりかし、カミサマというものは意地悪だと思う。
「「あ」」
「え」「は?」
あげた声が被ったのは宮野双子だ。
そのあとに雲雀の声が続き、最後につられるようにして獄寺が声をあげた。
薄暗い廊下、曲がり角を曲がったその瞬間。
いわゆるばったり、というやつだ。
「……雛香!」
こちらの表情を見た途端、ぱあっと雛乃が顔を輝かせる。
「雛乃!」
なぜここに、と驚きながらもとりあえず駆け寄ってくる最愛の弟の顔に頬が緩み、自然と前へ1歩踏み出しかけて、
「わっ?!」
妙な言葉が口から飛び出した。
振り返り、おかしな声の原因を振り仰ぐ。
「あ」と獄寺がなんとも言えない顔つきをする下、しっかり繋がれたままの左手が、雛香の動きを妨げていた。
「……あ、」
「……え?雛香……」
口を開けたはいいものの、なんと言えばいいのかためらった瞬間、狙ったかのように雛乃が視線を下ろし目を見開く。
あ、しまった、
と思った。
だが慌てたって遅い。今更だ。だってどう弁解したらいい、この薄暗い廊下を手を繋いで歩いてきました、だなんて。
とりあえず手を放そうと反射的に力を緩めた、
その、次の瞬間。
「……放すなよ」
ぎゅっ、と強く、腕を引くように握り込まれた。
思わず体がよろめくほどに強い力だった。危うく傾きかけたところを、同じく力強い手が腕を掴むことで支える。
「へ、ちょっ、」
「……獄寺」
わけがわからず雛香が困惑に声をあげれば、それを遮るかのように、雛乃が突然名を呼んだ。
ぞくっ、とした。
思わず顔を戻し、薄暗い中こちらを見下ろす顔を見る。
途端、
何か見てはいけない物を見た、そんな気がした。
「……獄寺、何してんのかな?」
「見ての通り、」
わりと溺愛している雛香ですら、若干青ざめた雛乃の表情に、しかし全く動じない隣の獄寺。こいつ凄いな、と現状にそぐわない感想が頭を掠めた。
どこか呆然としている間に、腕を掴む手がぐいっと体を引く。
「わ、え、何、」
ぽかんと横を見れば、なぜか口角をつり上げる獄寺の顔。
挑発的に光る目は、少し前見たものと同じだった。
「手繋いでる」
「は……て待てお前!」
「なんだよ」
あっさり、というより堂々と宣言した獄寺に抗議の言葉を発する。が、それがどうしたみたいな目が返ってきただけだった。
……いやいや待て、おかしいだろ。普通に言い放ったけどどう考えてもおかしいからなそれ。
なんだか頭を抱えたくなってきた。こめかみが痛い。
「……へえ」
雛乃がうっすら笑みを浮かべる。
氷点下の笑みだった。とてつもなく怖い。ついでに言うと殺気も凄い。
「ふふ、そっか……今の時代の獄寺がわりと大人しめだったから、すっかり気を抜いてたよ。狼はまだいた、ってことだね?」
「何言ってっかわかんねえよ」
「雛乃、その……」
「雛香、今は静かにしてて」
にっこり笑って人差し指を口に立てられれば、言いかけた言葉は呑み込むしかない。
我が弟(10歳年上だけど)ながら非常に怖い。なんていうか、やばい雰囲気を醸し出している。
「獄寺、とりあえずその手を放そうか。雛香に触れてる両方をだよ、僕が匣を取り出すその前に」
「ちょっ、まっ、雛乃落ち着け!」
言いながら早くも匣を出し始める弟に戦慄する。
今の雛乃なら本気で開匣しかねない気がする。けっこう本当に。
「は、やれるもんなら――」
「ねえ君達」
しかし、反抗するように言いかけた獄寺の言葉を遮った声は、
雛乃の声よりさらに冷たく、凍てついていた。
「……何を、しているのかな」