君を咬み殺す3 | ナノ




修業の合間に
 机に突っ伏す2人を唖然と眺め、京子とハルはぱちぱちと目を瞬かせた。

「……今日もごちそうさまの前に寝ちゃったね」
「新しい修業が始まって3日連続ですよ」
「よほど疲れてるんだね……僕も厳しくしすぎたかな」

 ぐっすり眠るツナと山本の前、お椀片手に雛乃が苦笑気味に言った。
 女子お手製の料理が目の前にあるという、なかなか美味しいシチュエーションにも関わらず肝心の男子組は全員沈没中だ。
 連日の修業がたたっているらしい。

「……雛乃さんは、ツナさんを見てるって聞いたんですが……」
「ん、そうだよ。あ、コレ美味しいハルちゃん」
「は、はひ?!あ、ありがとうございます…」

 にこり、唐突にそう言う雛乃に、ハルは嬉しそうに頬を赤くする。
 10年前、まだあまり関わりのない彼とは初対面と言ってよかったが、雛乃本来の気質からか彼は京子ともハルともすっかり打ち解けていた。

「獄寺さんは今日も1人だけ席離れてますし……」
「ケガ、大丈夫かなあ……?」
「ほっときなさい」

 心配そうな顔をする2人に、横に座っていたビアンキが軽く鼻を鳴らす。
 ちらり、雛乃が目をやる先には、1人離れた机で眠り込む獄寺。

「自分の修業の不甲斐なさを恥じてるのよ」
「……うまくいってないんだ?」
「まあね。1分間に私のサソリを2匹倒すのがやっと……それよりあの子、やる気があるのかないのか……」

 難しい顔で呟くビアンキに、そっか、と雛乃も小さく返答するしかない。
 その会話を聞いていたのかいないのか、背後の獄寺は無言のままおもむろに立ち上がると、外へ出て行ってしまった。

「そーいえば雛香はどうなったんだ、雛乃」
 気まずい沈黙に配慮したのか(おそらくただの気まぐれだろうが)、ふと口を開くリボーン。
「そういえば、なんでもあの子、『催眠』の反動による体の不調が、全部消えたって聞いたけど」
「うん、それは本当。……でも、ね」

 前半、いつもの態度で肯定した雛乃は、
 突如冷ややかな笑みを浮かべ、箸を握り潰さんとばかりにぎりぎりと手に力を込め出した。

「……ここぞとばかりに、ね……仲直り、ていうか進展って言えばいいのかな……とにかくね、雲雀さんが、出しゃばって……ううん、修業の相手、してるよ……ふふふ……」
「……雛乃兄、と、とりあえずお椀置こう?ヒビ入ってるよ?」
「ひ、ヒビ?!雛乃さん、どうしたんです?!」
「雛乃くん、け、ケガは……」
「ハル、京子ほっときなさい。発作よ」
「発作じゃないよ!僕の雛香が……!」
「ちょっと黙りなさい雛乃」

 引けばいいのか心配すればいいのか困っている女子2人を前に、がばっと机に突っ伏す雛乃。
 ビアンキは呆れきった顔でその頭を軽くはたいた。

「……ううー、雲雀さんめ……」
「何か言ったかい?宮野雛乃」
「雲雀さんなんて、やっぱ嫌いだ……って、え?!」
「安心しなよ、僕もわりかし君のことは嫌いだ。邪魔だから」

 パッと振り返った雛乃の後ろ、ドアの前に立ち腕を組む雲雀の姿。

「よお雲雀。どうしたんだ?」
「やあ、赤ん坊。雛香を探しに来たんだ」
「……雛香に何の用?」
「そう殺気立たなくてもいいでしょ、宮野雛乃。雛香に僕の分の水も取りに行かせたんだけど、なかなか帰ってこないからね。見に来たんだ」
「あー、あいつ極度の方向音痴だからな。迷ってるんじゃねえか?」
「「え?」」

 リボーンの言葉に、雲雀と雛乃の声が綺麗に被った。





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