歩み寄り
「……つまり」
「知るほどに謎が深まるばかりでね。匣というものは」
床に座り込むツナの前、上空で激しくぶつかり合う2匹のハリネズミに見向きもせず、雲雀は淡々と言い放つ。
「雛香と調べていたんだけれど、今のところまだ解明できてはいない」
外野でぽかんと雲雀とツナの戦闘を見ていた雛香は、突如名前を呼ばれ、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。え、なに急に。
「覚えておくといい。大空の炎はすべての属性の匣を開匣できるが、他属性の匣の力を完全に引き出すことはできない。……どこかの誰かは別だったけれど」
「!」
目を見開いた周囲の真上、
ツナが開匣したハリネズミは、雲雀のハリネズミに取り込まれ、瞬時に破壊された。
「ツナ兄のハリネズミが……!」
「悲観することはないよ。大空専用の匣も存在するらしい」
息を呑むフゥ太やラルに背を向け、雲雀はまっすぐに歩を進める。
未だ床に座り込む、雛香のもとへと。
「……宮野雛香」
「え、ハイ」
「君、時間あるでしょ」
「は?」
質問ではなく断定形で投げかけられた雲雀の言葉に、雛香はぽかんと相手を見上げる。
「ちょっとおいで」
「わっ?!」
ぐい、と突如腕を引っ張り上げられ。
前をスタスタと行く雲雀に、雛香は慌てて後をついて歩き出した。
というか。
(……腕放せよバカやろう……!)
ぎゅ、と握られた腕を引っ張られる。
前を行く黒いスーツの背中を、雛香は恨みがましく見上げた。
その頬が赤くなっていることに、自分では気が付きもしないまま。
***
一方。
「……嫌な予感……」
アジトの長い廊下を、早足で進む1つの影。
「……すっっっごく嫌な予感が、する……」
顔に縦線を何本も入れ、思いっきり眉根を寄せた雛乃は、消えた兄を探す足取りを緩めず口元を引き攣らせた。
「……なんか、こう……雲雀さんと、何かありそうな……」
これが双子の繋がりなのか、幸か不幸か奇妙な勘を発揮させる雛乃。
「……雛香、お願いだから……っていうかついこの前まで塞ぎこんでたから、そんなの無いって思いたいんだけど……お願い、お願いだから、雲雀さんに手出されないでよ……!」
そうして、得てしてこういう予感というのは外れないものであったりする。