アクマイザー

四日目


今日は畑を作る事にした。山草やハーブは天然のもので賄えるが、それでもこの地では限りがある。しっかりとした野菜は街へ買いに下りるつもりでいるので、適当な副菜となり、苗を植えれば勝手に育つような、簡単で丈夫な作物がいい。
修行時代に畑として利用していた土地を見に行くと、当時の面影はほとんどなく、低木も生え放題ですっかり野原の一部と化していた。この険しい高地で、わずかな平地に草木が密集するのは当然のことだ。
サガがこちらを向いてぼそりと呟いた。
「お前のエクスカリバーで斬り払えるか?」
「それは出来ますが、結局は根を掘り起こす羽目になるかと」
「地面もお前の聖剣で耕せば…」
「無理です」
エクスカリバーでは鋭すぎる。いかな名剣であろうとも、剣では土を耕せはしないのだ。アイオリアの光速拳のごとく、1秒間に100回でも繰り出せば、みじん斬りの土壌にはなるかもしれないが、土の中のミミズやモグラも全滅だろう。
黒サガは肩をすくめて自分の手を見ている。
「ギャラクシアンエクスプロージョンで掘り起こしてみたいが」
「ただでさえ土壌が薄く、適合作地が少ないのですから、それを吹っ飛ばすような真似は止めてください」
俺は慌てた。この人は土を耕した事がないのか。
「すると、やはり自分の手で行うしかないのだな」
サガはしようが無いといった面持ちで、しかしどこか楽しそうにしている。
この作地面積であれば、人の手でもって土を整えるのが、結局は1番効率が良いのだ。
面倒とはいえ、黄金聖闘士の体力があれば、常人よりも時間はかからない。
「我らの技も、生活の役にはまるで立たん」
「当たり前でしょう」
聖闘士の技は、闘う為に磨かれたのであって、生活の為にあるのではない。
平時には使う必要もないし、乱用すべきでもない。
風が吹いた。サガの黒髪が靡いて広がる。
「生きた武器としての我らに、平時を生きよと命ずるのは、剣で畑を耕せと命ずるようなものではないのか」
ぽつりと聞こえてきたサガの声は平坦で、感情が読み取れなかった。
俺が黙っていると、サガは手に持った鉈で近くの藪を払い始めた。
確かに、物凄く似合わない姿だと思った。
「だが、生きる為に身体を動かす事は楽しいとも思うのだ、シュラ」
続けられた言葉で我に返った俺は、サガを手伝うべく鍬を手にする。

作業の合間に食べたパンとミルクだけの弁当は、とても美味かった。
サガはといえば、神の造形たるその身体を土で汚し、額にはうっすらと汗を滲ませている。
やっぱり似合わぬことこの上ないと思ったが、オレはこのサガの姿を絶対に忘れまいと思った。

この日は耕地を整えるだけで終わったものの、通常であれは数日を要すであろう作地を1日で終えられるのだから、聖闘士という武器も、農具に負けたものでは無いと俺は思うのだ。

(2009/7/1)


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