迷子と迷子と時々保護者
それから世間話でもしながら神社の境内を出て様々な屋台が並ぶ通りに行くと、突然ユイがあっと声を漏らした。
「見付かったのか?」
「射的の景品にイーブイドールがある!ハヤトさん、やっていきましょう!」
「あっ、おい、待て!」
ぐいぐいとユイはハヤトの手を引っ張った。
それを引き戻そうととするが、彼女は欲望に駆られているせいか逆に引っ張られていく。
「今はそんなことをしてる場合じゃないだろ!」
「いいじゃないですか、ちょっとくらい。あっ、おじさん一回やりまーす!」
とうとう射的屋の前まで連れてこられてしまった。
ユイが気のよさそうな店主に300円を渡しているのを見て、ハヤトは小さくため息を吐く。
「まいどあり。お嬢ちゃん、兄ちゃんと来たのかい?」
兄ちゃんって、もしかしなくても俺のことか。まあ、こんな妹がいたら、なかなか楽しいかもしれないけど。
そう思ったら、自然に笑みが漏れた。
「俺達って、兄妹に見えるんだな」
「だって、ハヤトさん彼女いそうに見えませんし」
訂正、やっぱりこんな妹はいらない。
「さーて、絶対にとってやるわよー!」
気合いとともに弾を銃口に込め、ユイは銃を構えた。
狙うは可愛い顔して強敵のイーブイドール。
弾は三発あるが、イーブイドールは大きく、重さもそれなりにあるだろうから、倒すのは難しい。
最悪、何回も挑戦する羽目になるかもしれない。
そうなる前に俺が説得して止めさせよう、とハヤトは密かに決意した。
しかし、
「やったー、当たったー!」
予想に反して、イーブイドールは呆気なく倒れた。
店主ともども目を瞠る。
「……お嬢ちゃん、うまいねえ」
「えへへー」
ユイは照れたように笑って、店主からイーブイドールを受け取ると、それをハヤトに渡した。
「あとニ発残っているので、それまで持っていてください」
「あ……ああ、わかった」
「次はチルットドールにしよーっと」
再び銃を構えたユイを呆気にとられて見つめる。
あんなに上手いとは思わなかった。
「ん?」
ふと、脚に何かが触れた気がして、ハヤトは足元を見下ろした。
いつの間にか、ハヤトとユイの間にエーフィが尻尾をゆらゆら揺らして座り込んでいた。
ユイのエーフィだ。確か、ファイと呼ばれていた。
いつモンスターボールから出したのだろうか。
いや、それより気になるのはエーフィの様子だ。
額の石が怪しく光っていて、まるでサイコキネシスでも使っているみたいだ。
「やったー、また当たった!」
思考を中断させるかのようなユイの声にはっとした。
まさか、こいつ……!
問い質そうとユイの肩に手を伸ばすと、足に鈍い痛みが走った。
反射的に手を引っ込めて下に目を向けると、エーフィがぐりぐりとハヤトの足を踏みつけていた。
エーフィが顔を上げ、ついと目を細める。
その瞳が『喋ったら殺す』とでも言ってる気がして、ハヤトはぎこちなく頷いた。
エーフィが満足そうに微笑む。
「やったー!今度はピィドールゲット!」
ゲーム終了を告げる声が聞こえると、エーフィは踏みつけていた足を退けて、優雅な仕草でユイの腰に付けられたモンスターボールの中に帰っていった。
「ハヤトさん、大収穫です!……あれ?引きつった顔してどうしました?」
「君のエーフィは怖いな」
「急に何言い出すんですか。あたしのファイは可愛いんです」
ハヤトは曖昧に笑って誤魔化した。
ユイの主張に同意するには、先ほどの光景はあまりにめ衝撃的すぎた。