迷子と迷子と時々保護者
「あっ、ハヤトさん!」
捜し物をするようにきょろきょとと辺りを見回して歩いていたハヤトは、神社の境内で聞き覚えのある声に呼ばれて足を止めた。
そちらに視線を巡らせば、ユイがこちらに駆け寄ってきていた。
「ユイか。久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです。会えてよかった」
ハヤトの顔を見て、ユイは安心したように笑った。
「君も祭りに来てたんだな。……あれ?アキラやキョウスケは一緒じゃないのか?」
こういう場には一緒に来ていると思っていたから、一人でいるのは意外だった。
ユイが眉を下げる。
「本当はアキラちゃんとキョウスケ、それからカナデと一緒に来てたんですけど、はぐれちゃって。ポケギアの充電も切れてて連絡とれないし」
「迷子って、いくつだよ」
「しょうがないじゃないですか!人多いんですから!」
心底呆れたというようなハヤトにユイは食ってかかった。
だが、次の瞬間には冷静になる。
「違う違う。ハヤトさんと喧嘩するために呼び止めたわけじゃないんですよ。ポケギア借りにきたんです」
「ポケギア?」
「はい。ハヤトさん、アキラちゃんやキョウスケと番号交換してましたよね?」
「ああ、したけど」
「じゃあ」
ユイの顔が喜色を滲ませる。
しかし、世の中そんなに甘くはない。
「でも、俺のポケギアも充電切れなんだ」
「役立たず!」
ユイは罵声を投げつけると、頭を抱えてその場に蹲った。
「それじゃ意味ないじゃない!それなら、ハヤトさんじゃなくてマツバさんに会いたかった!」
「なんでだよ」
ハヤトはむっとした。
まるで自分はマツバより頼りないと思われているようで、少し面白くない。
ユイはむすっとした顔を上げて、きっとハヤトを睨んだ。
「千里眼で探してもらえるからです!」
「悪かったな、千里眼が使えなくて。でも、探すのくらいは手伝ってやれるぞ」
はたと、ユイはきょとんとした顔でハヤトを見上げた。
「手伝って、くれるんですか……?」
「ああ。俺は構わないさ」
「あの、不躾ですが、もしかして一人ですか?」
恐る恐るといった体で尋ねてくるユイを今度はハヤトがきょとんとした顔で見返した。
何故、今その質問をしてくるのだろうか。
「いや、今日はジョウトジムリーダーで来たんだ」
とはいっても、イブキは人混みが嫌いだと言って来ていないし、ヤナギもジム戦があるらしく来られなかった。シジマは奥さんと一緒らしく、別行動だ。
「それなら、邪魔するのも悪いですし、遠慮しておきます」
なるほど、それを気にしていたのか。
悪戯好きではあるが、根はいい子だ。
ハヤトはふっと小さく笑った。
「大丈夫だ。俺もあいつらを探している最中だから」
「ああ、そうなんですか。それならおね……んっ?」
ユイは首を捻った。
それから、じっと穴が空くほどハヤトを見つめた。
「……もしかして、ハヤトさんも迷子ですか?」
「違う。あっちがはぐれたんだ」
「ハヤトさんが一人なら、ハヤトさんがはぐれたことになりますよね?」
「あっちが集団で迷子になっただけだ」
「集団で迷子って聞いたことないんですけど」
「俺はよく連れがそうなる」
「それ、毎回ハヤトさんがはぐれてるだけですって」
「いいや、俺がはぐれたことは一度もない」
「……じゃあ、もうそれでいいです」
ユイは長いため息を吐いて深くうなだれた。
なんだか、すごく馬鹿にされているような気がするが、気のせいだよな。
ハヤトは深く考えることは止めて、先行き不安そうなユイに手を差し出した。
ユイが怪訝そうな顔する。
「なんですか?」
「探してる間に俺達がはぐれたら大変だろ。だから、手を繋いで歩いたらいいんじゃないか?」
「それ、セクハラですよ」
「なんでだ!?」
「そんなこと言って、暗がりに連れていく気でしょう。ああ、恐ろしい」
「誰がするか!あと、それはセクハラじゃ済まされないからな!」
「つまり、あたしには魅力はないと?」
「そうは言ってないだろ!」
「じゃあ、襲うんですね?」
「そうも言ってない!」
「あはは、冗談ですよ」
愉快そうに大笑いして、ユイはハヤトの手をとって立ち上がった。
それにようやく安心する。
「あっ、出来ればゆっくり歩いてくれると嬉しいです」
「ああ、浴衣着てるから歩きづらいのか」
「はい。そういえば、ハヤトさんも浴衣なんですね。普段から和服なので新鮮味ないですけど」
「さっきから一言多くないか?」
じと目で睨むと、ユイはきゃー怖いなどと言って袖で顔を隠した。