木の実の仲
やっぱり道は悪く、歩きづらいことこの上ない。しかも、方々に伸びた枝が進路を邪魔してきて、オレを苛つかせた。
ほんとに誰も手入れしてないんだな。人工林だったら、こんな目の高さに枝なんかねえぞ。

「リク、大丈夫か」

「きゃん」

前を歩くリクはひょいと倒木を飛び越えた。
もともとカノコの裏の森に住んでたから、慣れてるのか。
オレも都会の人間よりは森慣れしてるが、きついもんはきつい。
タージャは自分で歩かないから、楽でいいよな。このパーティで1番森にいそうな見た目してるくせに。

苗床となった倒木を跨ぎ超え、これでもかと存在を主張してくる枝を屈んで避ける。落ちた枝でも踏んだのか、足の下でぱきりと音がした。
いっそ、タージャの“グラスミキサー”や“いあいぎり”で道を開けてもらおうかな。

そんなことを本気で考えはじめた時、ぱっと視界が開けた。

「泉……?」

目の前に、深緑の泉が広がっていた。
穏やかな水面を水草が漂う。岸辺では、苔むした岩が顔を覗かせていた。
風がそよぎ、木々が一斉に梢を鳴らす。
水の匂いを含んだ風が、汗ばんだ頬を撫でていく。
森と水の精気に包まれ、苛立っていた心もすっと静かになっていった。

綺麗なとこだな。

「きゃう!」

リクがはしゃいだ声を上げて、泉に駆けていった。

「きゃんきゃん」

リクは近くの木を見上げた。
倣って見上げると、枝の先に青く丸い実がついていた。オレンの実だ。
視線を滑らすと、ブリーの実やオボンの実のなった木もあった。

珍しいな。イッシュではあまり採れないらしいのに。

誰かが育ててるのか?
いや、それにしては周りに雑草が生えすぎか。剪定された様子もないし、全部野生だろうな。

「ここの木の実がほしかったのか?」

「きゃん」

リクはこくこくと頷いた。
よくもまあ、こんなところにある木の実の匂いを嗅ぎつけられたな。流石、ポケモンの中でも嗅覚に優れているだけのことはある。

「じゃ、好きなの採ってこいよ。2、3個なら大丈夫だろ」

「きゃん!」

リクは勢いよく走り出すと、近くの木に駆け上がった。
わかれた枝の上で足を広げてバランスをとる姿は、何度見ても感嘆ものだ。
まあ、本来なら苦手なはずの木登りが出来るようになったは、いじめっ子ヨーテリー達から逃げるためという、なんとも情けない理由からだが。

「タージャも採ってくれば」

フードの中でぽかんと口を開けたタージャにも言ってやると、慌てて口を閉じて地面に降りた。木を見上げ、ゆっくりと首を巡らす。
しばらくして、タージャはさっと滑るように駆け出した。リクがいる木とは逆方向にある木に、するすると登っていく。
こっちはこっちですげえな。

さてと、オレもなにか採ってくるか。

好きな木の実を探して、泉の周りを散策する。雑草だらけで相変わらず道は悪いが、木が密集してない分、さっきよりはずっとましだ。
大きな花弁を広げる木や鮮やかな色の果実をつける木が、泉を囲むように立ち並ぶ。
見たところ、ここにある木はほとんどが果樹のようだ。それだけでも珍しいのに、こんなにも色々な種類が一箇所にかたまってるなんて、不思議こともあるもんだ。

「おっ、ウブの実だ」

丸くて黄色い実を見つけ、オレは足を止めた。
これ、甘酸っぱくて好きなんだよな。1つ貰ってくか。

1番熟れていそうな実に手を伸ばす。が、少しの差で届かなかった。背伸びをすれば、なんとか指先がやわらかな実に触れたが、これじゃもぎ取ることはできない。
ジャンプして……それだと、うっかり潰しそうだな。
登るにしても、この木は細いし、実がついてるのは枝の先だし。
どうにか届かねえかな。

少しでもあがこうと精一杯背伸びをする。
もう少し、あと少し。
いける!限界を超えろ!

「ジャー」

ぎりぎりまで背伸びをするオレを尻目に、背後から伸びた蔓がいとも容易くみずみずしい果実をもぎ取った。
振り返ると、腕にたくさんの木の実を抱えたタージャが、蔓に持ったウブの実を差し出してきた。

「……あ、ありがと」

「タジャ」

なんとも言えない気持ちでウブの実を受け取る。
ありがたいんだけど、なんだろう、ちょっと悔しい。

バックからきのみ袋を取り出し、ウブの実を入れる。

「タージャ、今食わないやつ以外はこの中に入れとけよ」

「ジャ」

袋の口を開けてタージャに向けると、抱えていた木の実を次々と投げ込んだ。
オレンにキーにオボンにナナシその他色々。最後に残ったヒメリの実だけは、袋にしまわず自分の口に入れた。
きのみ袋の口を閉じ、バッグに戻す。

その時、耳をつんざく悲鳴が聞こえた。

――この声は、リク!

声が聞こえた方に目をやると、泉の中でばたばたともがくリクがいた。
まさか、木から落ちたのか!?

「いくぞ!」

「ジャ」
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