口を噤む
母に手を引かれて街を歩いていると、視界の端でなにかが光った。
そちらに目を向けると、同じ年頃の少女がビルを見上げてはしゃいでいた。その隣で彼女の親らしき大人たちが微笑ましそうに少女を見守っている。
彼女たちの肌は日の光を照り返して、きらきらと輝いていた。まるで、晴天の下の海のように。

「どうしたの?」

いつの間にか立ち止まっていたらしい。手を引っ張られた母が訝しげに振り返った。
その瞬間、同じものを目に映した母の顔が歪むのを見て、答えるために開きかけた唇を、きゅっと引き結んだ。



幼いちさきが両親に地上につれていってもらった時、もしかしたら紡とすれ違っていた可能性もあるなと思って書いてみたら、何故か紡と彼の母親の話になってました。
ずっとこんな調子だったら、母親と話したくなくなるのも無理はないでしょうね。
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