「なに探してるの?」
背後からちさきに尋ねられ、居間の箪笥を漁っていた紡は手を止めて振り返った。
「耳かき」
「ああ、それだったらこの辺に」
ちさきは箪笥の奥に手を突っ込むと、すぐに目当てのものを取り出した。
「はい」
「ありがとう」
差し出された耳かきを受け取ろうとするが、何故かちさきは手を離さない。紡は怪訝に思って片眉を上げた。
ちさきはしばらく目を泳がせていたが、やがて意を決したように紡を見上げて口を開いた。
「あの、やってあげようか? 耳掃除」
思いがけない発言に紡は軽く目を見張る。じゃあ頼む、とぎここちなく頷くと、ちさきはちょっと照れたようにはにかんで畳の上に正座した。ほら、と膝を叩いて促され、彼女の太腿を枕にして横になる。
頭に感じる柔らかさとあたたかさは心地の良いものではあったが、同時に胸をざわつかせた。それはちさきも同じらしく、見上げた彼女の顔は赤くなっていた。腕を伸ばしてその頬に触れると、びくりと震える。
「言い出したのはお前だろ」
「だって、思ったより恥ずかしい」
しばらく落ち着かせるようにちさきの頬を撫でる。少しして、その手を掴まれそっと下ろされた。
「もういいから、耳だして」
言われるままに横向きになると、横髪を払われ耳かきで耳の壁をゆっくりとなぞられた。迷いのない動きは優しく、無意識に目を細める。
「慣れてる?」
「患者さんにすることもあるから」
「膝枕で?」
「そんなわけないでしょ。こんなこと、紡にしかしないわよ」
ふうん、とどこか優越感に浸るような顔して、紡は目の前にあるちさきの膝と畳の目を眺めた。
耳を撫でられているような感覚が気持ちよくて、眠気を誘う。紡は逆らわずに微睡みかけた。
その時、ふっと耳に息を吹きかけられた。反射的に肩が跳ねる。吹きかけた張本人を見上げると、目を丸くしていたが、すぐにおかしそうに声を立てて笑い出した。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
口元に手をあててくすくすと笑い続けるちさきに紡は目を眇めた。おもむろに膝をくすぐってやる。ひゃっと声を上げ、今度はちさきの身体が跳ねた。
「いきなりだと、びっくりするだろ?」
「紡って、変なとこ子供だよね」
むくれた顔でちさきは紡を睨んだ。が、まったく効き目のない様子に諦めてため息をつく。
「わかったから、反対の耳もだして」
「ん」
素直に寝返りをうち、今度はちさきの下腹に顔を寄せる形になる。ふと、また悪戯心が湧いてきたが、耳に触れた手と木の感触にしばらくは大人しくすることにした。
紡ちさにベタなことをさせようキャンペーン。続くかどうかは未定。
ちさきの太腿はいい感じにむっちりしてて大変よろしいと思います。