のど飴
不快な違和感に、意味はないと知りながらも紡は喉元に手をやった。目覚めた時から喉の痛みはあったが、どんどん悪化してるらしい。つられるように、身体も怠さを訴えはじめてきた。
とはいえ、わざわざ保健室に行くほどのものでもない。気力でどうにかなる範囲だと判断し、教室を出た足は次の授業がある化学室へ向かった。
渡り廊下にさしかかったところで、向こうから歩いてくるちさきの姿を見つけた。ちさきも紡に気付くと、小走りで駆け寄ってくる。

「ちょうどよかった。渡したいものがあったの」

紡は目を瞬かせた。手だして、と促されるままに掌を差し出すと、ちさきの手に握られていた小さな包みがのせられる。オレンジ色の包みには「のど飴みかん味」と書かれていた。

「喉、痛むんでしょ?」

「……よく、わかったな」

「それくらいわかるわよ。毎日一緒にいるんだから」

ちさきは姉ぶるような笑みを浮かべた。
紡は昔から何度もわかりにくいと評されてきた人間だった。今日だって、誰も不調に気付いていなかったのに、彼女はわかってくれるのだ。わかってくれるようになったのだ。
胸にあたたかなものが満ちて、自然と口元が緩んだ。それも他人からすればわずかな変化だろうが、ちさきは気付いたらしい。つられるように、笑みが深くなった。

「無理はしちゃだめだからね。つらくなったら、ちゃんと保健室行くんだよ」

「わかってる」

絶対だからね、と念を押して、ちさきは自分の教室へと戻っていった。その背が見えなくなってから、手の中の包みを開いてのど飴を口に入れる。口の中にすーっと甘さが広がった。
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