似てるけど違う
「ヒヅキ!俺と勝負しろ!」
「人違いです」
またか。
友達のピカチュウ、ヒカルの健康診断のためにトキワシティに来た途端これだよ。
おれの名前はシオで、間違ってもヒヅキじゃないのに。
ヒヅキはおれの母方の従兄だ。
この前のポケモンリーグ・セキエイ大会で優勝したヒヅキ兄の名前は、カントー中に知れ渡った。
それはおれにとっても誇らしいことだ。これさえなければの話だけど。
おれとヒヅキ兄は顔がそっくりらしい。
だから、おれをヒヅキ兄と誤解して勝負を仕掛けてくる人も少なくはない。
この人もそうだった。
「そう言って逃げる気だな?」
「いや、本当に違うんですけど」
「俺に負けて、不敗伝説に傷がつくのが怖いんだろ?」
「ヒカル、どうしよう。この人、おれの話聞いてくれない」
だいたいの人は納得してくれるけど、たまにこの人みたいにしつこいのがいるから困る。
どうしたらわかってくれるかなと訊くと、ヒカルは短く鳴いて前に出た。
「バトルするの?」
「ぴか」
「やっとその気になったか!」
「まだ受けた覚えはないし、おれはヒヅキじゃないんですけど」
言っても聞いてくれないみたいだ。困った人だよ。
ヒカルがやる気みたいだからやってもいいけど、ヒヅキ兄に間違われたままっていうのは問題だよね。もし負けたら、ヒヅキ兄の評価が下がるし。
…………。
うん、どうしようもないから成り行きにまかせよう。
「おれはヒヅキじゃなくてシオですけど、バトルはしてもいいですよ。ただし、1対1で」
「よっしゃあ!覚悟しろよ、ヒヅキ!」
だから、ヒヅキじゃないんだけど。
「いけっ、ゴローニャ!」
「うわっ、完全にこっち不利だよ。ヒカル、無理だけはしないでね」
ヒカルは頷くと、ゴローニャに向かって駆け出した。
******
勝敗は意外にもあっさり着いた。
ヒカルがゴローニャに“くさむすび”を仕掛けて終了。
おれは一度も指示を出していない。ヒカルが独断でやったことだ。
いつの間に“くさむすび”なんて覚えたんだろ?
相手のトレーナーは、ゴローニャをボールに戻して悔しがっていた。
「流石はチャンピオン。一撃で決めるとは」
「いや、チャンピオンじゃないんですけど」
「だが、次は負けないぞ!」
行っちゃったし。
結局、誤解は解けないままだったな。
まあ、勝ったからいいか。
でも、これからもこういうことが起きると面倒だね。
「どうしたら、ヒヅキ兄と間違われないようになるかな?」
「ぴか、ぴかちゅぴかー」
「何か案があるの?」
「ぴか」
ヒカルはおれの肩に飛び乗り、髪を引っ張った。
ちょっと痛い。
「髪がどうかした?」
「ぴかちゅー」
ああ、なるほど。
なんとなく言いたいことはわかったよ。
「それは、いい案かもしれないね」
ありがとう、と言って頭を撫でると、ヒカルは得意気に胸を反らした。
まったく、調子のいいやつなんだから。