三年越しの再会
ヒヅキに案内されたのは、シロガネ山洞窟の最奥だった。
日の光など届かないはずだが、なぜか他の場所より明るい。
ここで衣食住をしているのだとヒヅキは言った。
流石に、あんな吹雪の中で暮らしてるわけないか。

「適当に座って」

ヒヅキが躊躇いなく地面に座ったから、オレも隣に腰を下ろす。

三年も会っていなかったはずだが、オレもこいつも昨日も会ったかのような気安さだ。
幼馴染みとは、そういうものなんだろうか。

「で、何しに来たの?」

「お前に会いに来たに決まってんだろ」

事実なんだが、口にだすとずいぶんと恥ずかしいセリフだ。
ヒヅキの反応を窺うと、吹き出すのを堪えているのか口を押さえて肩を震わせていた。
普段は能面みたいに表情を変えない分よりムカつく。

「笑うな」

「無理」

笑ってるせいか声が震えている。
そんなにおかしいか。オレも思ったけど。

「それにしても、よくボクの居場所がわかったね」

「ハヅキから聞き出した。あいつ、ずっとお前の居場所黙ってたんだぜ。信じられねぇ」

「あんまり、ハヅキのこと怒らないでよ。ボクが言わないように頼んだんだから」

「はぁ!?」

さらりと告げられた事実に思わず声を上げる。
ヒヅキは煩いと言うように掌で両耳を塞いだ。

「なんでそんなことしたんだ!」

「だって、アオイに知られたら、下山しろって言われそうだし」

「当たり前だろ!三年間連絡一つ寄越さないないと思えばこんなとこにいやがって!おばさん心配してるぞ!知ってるか、巷では死亡説まで流れだしてんだぞ!」

一気に巻くし立てて言えば、やっぱり、とヒヅキはわざとらしくため息をついた。

「ボクにはボクの考えがあるんだから、あまり干渉しないでよ」

「じゃあ、その考えとやらを聞かせてもらおうじゃねぇか」

じっと睨み付けると、ヒヅキは、アオイにはわからないかもしれないけど、と前置きした。
オレにはわからないって、一体なんなんだ。

「チャンピオンを辞めた後、ボクは色んな地方を旅したんだ」

「それは知ってる」

三年前、まだ自分の知らない世界があるなら見てみたい、と言ってチャンピオンを辞退して旅立っていったヒヅキを思い出す。
リーグの理事長や四天王の制止も振り切って旅立ったヒヅキは、チャンピオンを目指してマサラタウンを旅立った時と同じように、好奇心で瞳を輝かせていた。
だけど、今のヒヅキの瞳はどこか空虚だ。

「ジョウト、ホウエン、シンオウのジムを制覇して、殿堂入りも果たして。ナナシマとジョウトにはバトルタワーっていう施設があったし、ホウエンとシンオウにはバトルフロンティアっていう施設があったから挑戦してみたんだ」

「結果は?」

「わかるだろ?」

その施設も制覇したわけか。
本当に化け物だな、こいつ。

「そんな風にずっとバトルしてきたんだけど、楽しくないんだよね」

「はっ?」

楽しくない?
バトルが楽しくて仕方ないって奴が?

嘘吐くな、と言いかけてやめた。
ヒヅキの表情は真剣そのものだ。
いくら能面みたいに表情の変わらない顔だとしても、十数年も幼馴染みやってればそのくらいわかる。流石に、ハヅキには適わないけど。

「手応えがないんだよ。あの頃みたいに、勝つか負けるかわからないギリギリのバトルがしたいのに」

「お前が強くなったからだろ」

「うん。だから、ここで強い人を待ってるんだ」

ヒヅキはどこか遠くを見つめていた。
その先にあるのは、きっと、“確証のないいつか”なんだろう。

「けど、ここで待つ必要はないだろ」

「ここなら、強い人しかこれないから」

「だったら、またチャンピオンになってポケモンリーグで待てばいいだろ。ここじゃ人すら来ねえぞ」

「リーグみたいな華やかな場所じゃ駄目なんだよ。シロガネ山みたいに何もない場所じゃないと」

その理由はオレにはわからない。
訊いても、これ以上は何も言わないだろうし、理解出来るとも思えない。
だったら、オレに出来ることは一つしかない。

「お前、どうしたら下山する?」

「楽しいバトルが出来たら。キミとチャンピオンをかけて戦ったとき以上の」

「おいおい、随分とハードル上げるじゃねえか」

「キミが強くなっていれば、出来ると思うよ」

ヒヅキは挑戦的な瞳を投げ掛けた。

たく、オレから挑もうと思ってたのによ。

「絶対にお前を下山させてやるからな!覚悟しろよ!」

「望むところだ」
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