三年越しの再会
ハヅキからヒヅキの居所を聞き出したオレは、すぐにそこへ向かった。
タマムシデパートにハヅキと荷物を置いてきちまったけど、あいつにはニドクインとかがいるから、なんとかするだろ。
それにしても、
「本当に、こんなとこにいるのかよ」
ハヅキを疑うわけじゃねえけど、そう思わずにはいられない。
カントーとジョウトの間に聳えるシロガネ山。
険しい地形を持ち、かつ強い野生のポケモンが棲息しているために、並のトレーナーでは立ち入る事さえ許されない。
ジムリーダーの特権として、シロガネ山への入山は許可されていたけど、来たのはこれが初めてだ。
このシロガネ山頂上にヒヅキはいるらしい。
なんだって、こんなとこにいるんだよ。
カントーに戻ってきたんなら、大人しく家に帰ればいいだろ。
シロガネ山洞窟を抜けると、雪が降っていた。頂上が近い証だ。
横殴りの雪が頬を打つ。
「さむっ」
あまりの寒さに身体を震わせた。
防寒対策くらいしてから来るんだった。ジャケットだけでは気休め程度にしかならない。
「でてこい、ファイア!」
ウィンディのファイアを出し、その背中に跨った。
ファイアの周りだけ、春の陽気のように暖かい。
「ファイア、このまま頂上まで登ってくれ」
ファイアは了承するように一声鳴き、オレが振り落とされない速さで走りだした。
最初からこうすればよかった。
人間の足より速いし、なにより暖かい。
頂上までくると、吹雪はいっそう激しさを増していた。
前がほとんど見えない。
こんなとこにずっといるとしたら、もはやあいつは化け物だ。
ファイアに乗っているから多少は寒さを防げるものの、頬を打つ雪は冷たいし、前へ進むのも困難だ。
進んでいくと、突然ファイアが遠くに向かって吠えだした。
目を凝らしてそっちを見ると、誰かが立っている。
ヒヅキ、か?
その人影が次第にはっきりしてきて、推測は確信に変わった。
服装はオレの知っているものと少し違うけど、赤い帽子から出た跳ねた黒髪も、相変わらず考えの読めない顔も、肩に乗った威嚇してくるピカチュウも、昔から少しも変わってない。
あと、半袖なのも変わらねえな。この氷点下で半袖とか、化け物かよ。
「久しぶりだな、ヒヅキ」
「……アオイ?」
「おいおい、その間と疑問形はなんだよ。まさか、オレの顔を忘れたわけじゃねえよな?」
冗談めかして言えば、そんなはずないだろ、と返ってきた。
オレは人知れず安堵する。ヒヅキなら、忘れていてもおかしくない。
「なんで、アオイがこんなとこにいるのさ」
「それはこっちのセリフだ!なんでこんな雪山にいるんだよ!しかも半袖で!」
「慣れてるから平気」
さらりと言ってのけるこいつは、とうの昔に人間をやめてる。
でないと、慣れるとか無理だ。
「見てるこっちが寒いわ」
わざとらしく身震いすると、ヒヅキがこっちに近付いてきた。
なんだなんだ。何する気だ。
身構えるオレをよそに、ヒヅキはそのままオレの横を通り過ぎた。
「んなっ!?」
拍子抜けして、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「ちょっと待てよ!なんのつもりだ!」
ヒヅキは振り返って面倒くさそうにため息を一つ吐いた。
「寒いなら、洞窟内で話した方がましだろ?」
「えっ、ああ、そうだな」
驚いた。
ヒヅキにもそのくらいの気遣いができるようになっていたのか。
昔のこいつだったら、そんなことに構わず、ここで話そうとしただろう。
確かに成長していたライバル兼幼馴染みに、感動すら覚えた。