故郷を歩く
「で、案内するにしても、たいしたものはないよな」

なにせ、なにもない田舎町だ。
娯楽施設は1つもない。
歴史の教科書にも、地図上にひっそりと名前が書いてあればいい方だ。
田舎ゆえに農業はそれなりに盛んだが、特産物がないからぱっとしない。
恐らく、カノコで有名なものといえば、アララギ研究所くらいだろう。

「とりあえず、これがオレの家」

知ってる、とばかりにタージャに頭を叩かれた。
キレのいいツッコミするな。

「他にどっかあるか?」

「あとは、海とか?」

「じゃあ、あそこにいこうよ!海がよく見えるところ!」

チェレンの意見を受けて、ベルが提案する。

「それいいな。じゃあ、あそこと、あとはチェレンの家とベルの家か?」

「それはだめ!」

急に大声を出したベルに、オレとチェレンだけでなく、ポケモン達まで目を丸くした。

「どうしたの?」

「とにかく、あたしの家はだめ!」

理由も言わずに、ベルはだめだめと必死で首を振る。
落ち着かせようとチェレンが肩を掴むが、効果はいまひとつのようだ。

ベルが自分の家に行くのを嫌がってるのは、やっぱり親父さんが原因だろうか。
あの親父さんの過保護っぷりは、カノコでは知らない人がいないくらい有名だ。ベルが転んで膝を擦りむいただけでも数日は外に出さなかったし、今回の旅立ちにも猛反対していた。
意外と頑固なベルが親父さんの静止を振り払って家を出たであろうことは、想像に難くない。

「じゃあ、あそこだけにするか」

「そうしよう!」

必死な形相のベルに、オレもチェレンも苦笑するしかなかった。
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