いつかのワンダーランド
一抹の虚しさを感じながら癒しを求めて別の場所に目を向けると、アルが緑色の――多分抹茶の――パウンドケーキをつついて、近くにいたフランとヒヤップにクアーと話しかけていた。答えるようにフランがばさっと艶やかな翼を広げる。
アルも白い翼を広げ、お菓子のお礼のつもりなのか、翼の先から水を飛ばして得意の水芸を披露した。日の光を反射して、アルの上に小さな虹がかかる。純白の翼を広げて虹の傘を差した姿は綺麗で、何度も見ているオレでも目を奪われるものだった。

「ウォー」

「ヒヤー」

すごい、とばかりにフランがばさばさと羽ばたき、ヒヤップがぺちぺちと拍手をする。
褒められたアルははにかんで、クアーとのんびりした声を上げた。

なんだ、あそこ。マイナスイオンでも発生してるのか。

「そういや、前はいなかったポケモンもいるけど、新しくゲットしたのか?」

「ストライクのキッシュと、あそこに隠れてしまっているエーフィのパフェはジョウトでね。ヒヤップのシャルロットはもっと前にゲットしていたのだけど、前会った時はアララギ博士に預けてたの」

今日はみんなで紅葉狩りをしようと、預けていたポケモンも連れてきたらしい。
だから、6匹以上連れているのか。

オレはパフェが隠れているという木の洞を見やった。
洞の外からキッシュが話しかけているようだが、パフェはまったく姿を見せない。

「パフェは臆病なのか?」

「ええ、生まれた時からずっとね。あれでも、少しはましになっているのだけど」

トウカは困ったように眉を下げた。
オレにはトウカの気持ちがよくわかった。オレの手持ちにも似たようなやつがいるからな。

「リクみたいなやつだな」

「そういえば、パフェとも甘い物で仲良くなったのよ。デザートのパフェをあげたら、とても気に入ってくれて。だから、ニックネームもパフェにしたの。同じ方法で、ミスミたちとも仲良くなれたらいいのだけど」

「甘い物か……」

残念ながら、パフェどころかお菓子すら今は手持ちがない。せいぜい甘い味のモモンの実やマゴの実くらいだ。
それに、ここにはトウカたちが作ったお菓子がたくさんある。今更オレたちが甘い物を差し出したくらいで、興味を持ってくれるだろうか。

そんなふうに頭を悩ませていると、キッシュとパフェのもとにサイコキネシスでたくさんのお菓子を運ぶユラとリクがやってきた。

「シャアーン」

「ばうばう」

「スト」

ユラとリクはキッシュに声をかけ、洞の前にお菓子を並べた。クッキーやタルト、パイ、マフィンなんかが1つずつ置かれていく。どうやらパフェのためにお菓子を持ってきたらしい。
リクはあらゆるものに怯えて、ユラはあらゆるものを諦めて、心を閉ざしていたことがある。だから、閉じ籠ってしまっているパフェのことを他人事と思えなかったんだろう。

「優しいコたちね」

「だろ?」

トウカに2匹のことを褒められて、オレは得意になって頷いた。

ずっと見られていると出づらいだろうと思ったのか、リクとユラは洞の中に一声だけかけて、すぐにそこから離れていった。
その判断は正しかったらしく、しばらくして、そろそろと耳を垂れ下げたポケモンがでてきた。マフィンを齧って、リクとユラの背を見やる。二股の尻尾がゆらゆらと穏やかに揺れた。
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