いつかのワンダーランド
さくさくと紅葉を踏み鳴らし、オレたちは適当に歩き出した。
とくに行く宛もなく歩いていると、木立に隠れていた瓦屋根の塔が遠くの方に現れた。瓦屋根自体はホウエンでもよく見かけたが、あんな風に何重にも積み上げられた塔ははじめて見る。ジョウト地方にあるという古い塔もあんな感じなんだろうか。
確実に人がいるとすれば、あそこか? 確証はないが、他に目標もないし、ひとまずはあそこを目指してみるか。

しばらく歩くと、どこからか声が聞こえてきた。人じゃない。ポケモンの声だ。
足を進めるごとに声は大きくなっていく。どうやら、1匹ではないらしい。何種類ものポケモンの声が混ざっていた。

「タージャ、どうする?」

余計な戦闘を避けるために迂回するか、あのポケモンがいることに賭けてこのまま進むか。
タージャは声のする方をしばらく見据え、少し口の端を上げた。そのまま身体をくねらせ前に進む。声の主たちに会いにいくつもりらしい。
やけに上機嫌なのが気になるが、ついていくか。シーマやグリじゃないんだから、わざわざ危険に突っ込んでいくことはないだろう。

そのまま進んでいくと、ちょっと開けた場所にでた。その割にさほど広く感じないのは、そこに10匹近いポケモンとこちらに背を向けて倒木に座る少女がいたからだ。
白いキャップから出たボリュームのあるブラウンのポニーテールと黒のベスト。その組み合わせはよく知った友人のもので、オレは7割方確信しながらそいつの名前を呼んだ。

「おーい、アマネだよな?」

少女が不思議そうに振り返る。オレを認めて目を見張った顔はアマネと同じだったが、雰囲気がアマネとはまるで違っていた。

「トウヤくん……じゃないわよね?」

アマネによく似た少女が口にして否定したオレのものではない名前。前に、一度だけその名前のやつと間違われたことがあった。アマネによく似た、アマネではない少女に。

「もしかして、トウカか?」

「ええ。あなたはミスミ、よね?」

「ああ」

頷き、オレとトウカは驚きの表情を浮かべたまま、なにも言えずに見つめ合った。
会えるものならまた会いたい、とは思ったが、まさか本当に会えるとは。

いつの間にか思い思いに遊んでいたトウカのポケモンたちも集まってきて――こないやつや隠れてしまったやつもいるが――、不思議そうに、あるいは面白そうにオレたちを眺めていた。
前に会った時には連れていなかったポケモンもいる。あれから新しく捕まえたんだろうか。

ちら、と横目でタージャを窺うと、満足そうにオレを見ていた。
こいつ、声を聞いた時点で気付いてたな。

「えっと、久しぶりだな」

とりあえずなにか言おうと口を開いたが、出てきたのは月並みにもほどがある言葉だった。
今回は最初からここが異世界だとわかっていたから、心の準備はできているつもりだったが、意外と混乱しているのかもしれない。

予想はしていたオレですらこのざまなんだから、 トウカはもっと混乱しているんだろう。いまだにぽかんとした顔でオレを見上げていた。

「まさか、また会えるなんて」

「素敵?」

先に彼女の口癖を言ってやると、トウカは目を丸くして、それからおかしそうに笑った。

「ええ、そう、素敵」
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