青空に向かって
*BWから10年以上後、トウトウが結婚して子供がいる。
*トウトウはでない。


ソフトクリームみたいな雲が浮かぶ青空に、太陽がさんさんと輝いている。花壇に咲くひまわりのまねをして、ぐっと太陽に向かってせのびした。
いい風が吹いてるなー。
うん、今日はいけそうな気がする。
ぼくは足下できょろきょろと首を回すまめを抱き上げて、空に向かって腕を上げた。

「さあ、飛べ!」

ぼくの手のひらをけって、まめは青空に向かって羽ばたいた。ちょっとたどたどしいけど、風を切って滑空していく。
今度こそいける!
そう思ったけれど、5メートルもいかないところで、まめはゆっくりと地面におりてしまった。
まただめか。

「ねえ、まめ。あの木の枝までは飛ぼうよ」

庭のすみにあるオレンの木を指さす。
まめはそっちを向くことなく、ひょこひょこ歩いてぼくのところに戻ってきた。せめて飛んでよ。

「どうして、まめは飛ばないの?」

きいても、まめはクルッポーとしか鳴いてくれない。
こまったなあ。どうしたらいいんだろう。
まめを見つめて考えこんでいたら、玄関の方からドアベルの音が聞こえた。
だれだろ。
まめを抱き上げて、玄関の方に回る。
そこにいた人を見て、ぼくはあっと声を上げた。

「N!久しぶり!」

「久しぶり。元気だったかい?」

「元気だよ!」

Nはお父さんとお母さんの昔からの友達で、いつもは旅をしているけれど、たまにうちにとまりにくる。その時、おみやげをくれたり、旅の話をしてくれるから、Nがうちにくるのはぼくにとって一大イベントだ。

「今日もうちにとまるの?」

「そのつもりだよ。トウヤとトウコは?」

「お父さんとお母さんは2人でおでかけだから、今日はぼく1人でるすばんなんだよ」

えらいでしょ、と胸をはったら、えらいねとNに頭をなでられた。
なんか、子どもあつかいされてる気がする。
ちょっとむっとなってその手をはたくと、Nは苦笑いして手を引っ込めた。ちょっと悪いことしたかな。

「ところで、そのマメパトはどうしたんだい?」

Nはまめに不思議そうな目を向けた。
そっか、Nは知らないんだった。

「ちょっと前にね、ボルトロスとトルネロスがけんかして、それにまきこまれてけがしちゃったのを助けたんだ」

Nに説明してから、まめをNに向かって上げる。

「まめ、この人はお父さんとお母さんの友達のNだよ。あいさつして」

まめがクルッポーって鳴くと、Nははじめましてとまめの頭をなでた。
くすぐったそうに手の中でまめが動く感覚が伝わってきて、ぼくもくすぐったくなった。

「怪我はすっかり治っているようだね」

「そうなんだけど、いつまでたっても飛ばないんだ」

「飛ばない?」

Nはぴくっと眉を上げた。
ぼくはこくこくと何度もうなずいた。

「うん。お医者さんも博士ももう飛べるよって言ってるのに、まめはいつまでたっても飛ぼうとしないんだ」

「それはおかしいね」

「でしょ。ねえ、まめにどうして飛ばないのかきいてみてよ」

「わかった」

Nはぼくの手からまめをそっと抱き上げた。それから、「どうして飛ばないんだい?」とまめにきいた。
まめが何度か鳴くと、Nはこまったさんな顔になった。

「どうしたの?」

「そんなことよりお腹が空いたよ、って」

「……まめ、夜ごはんまでがまんしてね」

まめはちょっと不満そうにグルルと鳴いた。
こっちはシンケンだっていうのに……。

「もう少し、話をさせてもらってもいいかな」

「うん、おねがい」

それから、Nはまめに何回も話かけた。もう飛べるはずだよ、とか、前はちゃんと飛んでいただろう、とか。まめもそれに答えるように鳴いてたけど、ぼくにはなんて言ってるのかさっぱりわからなかった。
たのんでおいてなんだけど、ずるいなあ。ぼくもまめと話したいなあ。

「うん、わかった」

「ほんと!?」

はっとして顔を上げると、Nにまめを手渡された。落とさないよう、しっかりと抱きかかえる。

「まめは飛ぶのが怖いらしい」

「こわい?なんで?」

「空を飛んでいる時に雷を受けて怪我をしたことが、心的外傷になっているみたいなんだ」

「しんてきがいしょー?」

「飛んだらまた怪我をするかもしれないと怯えているんだよ」

わかった?、ときいてくるNにうなずく。ほんとはよくわからなかったけど、飛ぶのがこわいっていうのはわかった。

「まめ、飛ぶのはこわくないよ。きっと楽しいよ。飛んだことないからわかんないけど、ジンルイががんばってヒコーキをつくったくらいだから、楽しくないはずないよ」

言い聞かせてみたけれど、まめは首を横にふるだけだった。
これじゃだめか。

「どうしたらいいの?」

「恐怖を軽減させていくしかないだろうね」

「けーげん?」

「空を飛ぶことは怖くないと教えてあげればいいんだよ。時間はかかるだろうけれど
ね。一度怖いものだと認識してしまったら、なかなか変えられないから」

「Nもそうだった?」

Nはきょとんと目をまんまるにして、それからふわっと笑った。

「そうだよ」

「そっか。じゃあ、たいへんだね。ぼくにできるかな」

「出来るよ。キミはあの2人の息子だから」

それはサイコーのほめ言葉だと思う。
なんだってできそうな気がしてきた。

「ぼく、がんばるよ。だから、まめもがんばってくれたらうれしいな」

まめがクルッポーって鳴いたのは、がんばるよって意味だといいな。ほんとのことはわかんないけど、そうだといいな。


主人公とNが十年も二十年も仲良くしてたらいいなという妄想から生まれた産物。
トウトウなのは、普段書いてる主人公(この場合だとミスミとアマネ)が結婚してる姿が今いち想像できなかったからです。
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