リッカと喧嘩した。
原因は本当に些細なことで、今思うと、どうしてあんなことで争ったのか不思議になるくらいだけど、酷いことを言ってリッカを泣かせてしまった。
あっ、と自分の失言に気づいた時にはもう遅く、リッカは走り去っていた。
高台からの景色を眺めながら、そっとため息を吐く。
謝りにいかなければと思うのに、ここから動く気になれない。
もう一度ため息を吐くと、後ろから名前を呼ばれた。
「あっ、ニーサン」
振り返ると、一つ年上の友人のニーサンがいた。その後ろから、ちらちらとお団子ヘアが見え隠れする。
……リッカ、なにしてるんだ。
「ニーサン、後ろのって」
「リッカだ」
「いや、それはわかるけど」
ニーサンの肩からひょこっと顔をだしたリッカと目が合う。
リッカは泣きはらした目でじっとこっちを見てきた。さっきの今だから、すごく気まずい。
「なに?ニーサン連れて、復讐にでもきたの?」
違う。言うべきことは、それじゃない。
けれど、何かが邪魔をして「ごめん」の一言が出てこない。
「ちげえよ。……ほら、リッカ」
ニーサンがリッカの背中を押す。
たたらを踏みながらおれの前に出てきたリッカは、居住まいを正すと勢いよく頭を下げた。
「さっきはごめんね!」
「えっ?」
なんで、リッカが謝ってるんだろう。
酷いこと言ったのはおれの方なのに。
呆然と立ち尽くしていたら、頭を下げているせいでおれの目線より下になったリッカの顔が歪んだ。
どうしよう、また泣かせてしまう。
助けを求めて、ニーサンを見る。ニーサンは何も言わずに頷いた。
えっ、それどういう意味?
「とにかく、リッカは顔を上げて」
「許してくれるの?」
「許すもなにも、謝らないといけないのはおれの方だよ。さっきは言い過ぎた、ごめん」
言えなかったはずの一言が、今は何故かさらっと言えた。
リッカがぱっと喜色を浮かべる。
「よかった。ひさっちゃんに嫌われたかと思って、どうしようかと思ってたんだ」
「だから言ったろ。ヒサメがリッカを嫌うわけないって」
うん、とリッカは笑った。
つられて、おれも笑った。
ヒサメがごめんと言えなかったのは、男の子によくあるプライドが邪魔した結果。