最初の1歩
家に戻る途中、オレはパートナーの名前を考えていた。

「緑、葉っぱ。……なあ、お前は何がいい?」

ちゃっかりフードの中に入った緑のポケモンに尋ねる。
緑のポケモンはジャーと鳴いた。

「ジャー? 炊飯器みたいでやだな」

つかさず後ろから頭を叩かれた。
こいつ、ツッコミも出来るのか。

「あっ、そうだ。お前がプルリルに最後の一撃を加えた時の鳴き声からとって『タージャ』はどうだ?」

「タジャ」

今度は叩かれなかった。それでいいってことか。

「じゃっ、改めてよろしくな、タージャ」

「ジャ」


******


家にはすぐ着いたが、玄関から入るわけにもいかず、裏に回った。
オレの部屋の窓は開けっ放しにされていたが、ここから登ることは出来ない。

「タージャ、お前の蔓で登れないか?」

「ジャ」

タージャは一つ頷くと、蔓を伸ばして窓枠に引っ掛けた。
タージャの身体を掴み、ゆっくりと2階まで上げてもらう。

「おーい、戻ったぞ」

タージャを左腕に抱えて窓から部屋に入りながら、チェレンとベルに声を掛けた。
オレの姿を認めた途端、2人はほっとしたような顔をした。

「おかえり。遅いから心配したよ」

「なんともなくてよかったあ」

そう言うチェレンの足元にはオレンジのポケモンが、ベルの腕には水色のポケモンが抱かれていた。
なんとなく状況が理解出来た。
こいつら、本当に心配してたのか?

「お前ら、オレ抜きでポケモン選んだな」

「うん、そう。あたしのポケモンはこの子。ミーちゃんっていうんだよ」

「オレの選択権はどこにいったんだ」

タージャを選んだのはオレの意志だけど。
それでも、何とも言えない感情がため息となって零れた。

「まあ、最初からこいつにする気だったからいいけど」

「じゃあ、決まりだね。僕がポカブ、ベルがミジュマル、ミスミがツタージャだ」

わざわざチェレンは確認をとった。
前々から思っていたが、チェレンは教師に向いてる。本人の夢は別にあるらしいが。
オレは腕の中のタージャに目をやった。

「こいつ、ツタージャってポケモンだったのか。チェレン、よく知ってたな」

「アララギ博士の手紙に書いてあったんだよ。読まなかったの?」

ほら、とチェレンはアララギ博士の手紙を差し出した。ただし、2枚目を。
1枚目しか読んでなかった。
タージャに「しっかりしろ」と言わんばかりに叩かれた。手厳しい。
2枚目を読んでみると、3匹の種族名と分類、タイプが書かれていた。

タージャはくさへびポケモンのツタージャで、草タイプらしい。

オレンジのポケモンがひぶたポケモンのポカブ。タイプは炎。

水色のポケモンがラッコポケモンのミジュマル。タイプは水。

アララギ博士がどういう基準でこの3匹を選んだのかは知らないが、うまいこと三竦みになっている。

「ねえ、せっかくポケモンを貰ったんだから、ポケモンバトルしようよ!」

ベルが笑顔で提案した。
その心意気はいい。だが、

「待て、ここはオレの部屋だ」

「そうだよ。室内でポケモンバトルなんてしたら危ないだろ?」

「この子達、まだ小さいんだから大丈夫だよ! いけ、ミーちゃん! “たいあたり”!」

聞けよ、人の話!

ベルの腕から床に降り立ったミジュマルは、戸惑いながらもポカブに強くぶつかっていった。
ミジュマルの攻撃を受けたポカブはカーペットを引き摺ってぶっ飛び、ごみ箱にぶつかって倒れた。ごみ箱も倒れて中身を撒き散らす。

このままやると、かなり悲惨なことになるんじゃないか……。

「ポカブ、大丈夫か?」

「ぽか!」

気丈にも立ち上がったポカブは青筋を浮かべて怒っていた。
仕返しとばかりにミジュマルに“たいあたり”を仕掛ける。
技を受けて飛んでいったミジュマルが、ベッドの横に積んであった漫画に突っ込んだ。

「いったあ! ミーちゃん、もう一度“たいあたり”!」

「ポカブ、こっちも“たいあたり”で向かいうて」

そのまま“たいあたり”の応酬が始まった。
技が決まっても決まらなくても、本棚を倒し、ベットを汚し、カーテンを裂く。

……オレの部屋が見るも無残な姿になってくじゃねぇか!

「お前ら一旦やめろ!」

「ミーちゃん、今だよ!」

「ポカブ、“しっぽをふる”で一度ミジュマルの防御力を下げるんだ!」

聞いちゃいねぇ!
ベルはともかく、チェレンまで夢中になってんじゃねえよ!
あいつの眼鏡は飾りか!?

「タージャ、チェレンとベルに“たいあたり”!」

タージャは一瞬躊躇ったが、指示通りチェレンとベルに“たいあたり”を食らわせた。

これで目を覚ましやがれ!
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