最初の1歩
「ふええ、部屋がすごいことになってる」

「少し夢中になりすぎたようだね」

「ねえ。この子たち、こんなに小さいのにこんなにすごい力があるんだね。あたし、感動しちゃったよ」

「オレの部屋をこんなんにしておいて、よくそんなのんびり話していられるな!」

無惨な有様の部屋の真ん中でオレは叫んだ。
カーテンやシーツは裂け、机や棚が横たわり、ゴミや本があたり一面に散乱し、床や壁にポケモンの足跡が付いている。唯一の救いは、Wiiや父さんに買ってもらった液晶テレビが無事なことくらいだ。
それもこれも全部、ベルとチェレンがオレの部屋でポケモンバトルをおっぱじめたせいだ。

「そうだね。はやくおばさんに謝らないと」

「その前にオレに謝れ」

「あっ、ミスミごめんね」

「悪かったとは思う。でも、さっきの“たいあたり”はかなり効いたよ」

「あたしも」

そう言ってチェレンとベルは鳩尾を押さえた。ポカブとミジュマルが心配そうに自分の“おや”を見上げる。
まあ、さっきまで悶絶してたしな。
まさか、タージャが鳩尾に“たいあたり”するとは思わなかった。二人の注意を引くだけでよかったんだが。

「タージャ、今度から人の急所に攻撃するのはやめておこうな」

「ジャ」

「ほら、タージャもこの通り反省してるから、許してやれよ」

「まず、君が人間に攻撃するよう指示しないでくれよ」

「あー、以後気を付ける」

頭に血が上ったらやりかねないけど。
その時はポケモンに頼らず、自分の拳でなんとかしよう。

「さて、ベル。おばさんに謝りにいくよ」

「あっ、待ってよチェレン!」

さっさと扉を開けて出ていったチェレンを、ベルが慌てて追いかけていく。その後ろをちょろちょろとポカブとミジュマルがついていった。なんだか、ベルが3人に増えたみたいでおかしかった。
オレは幸いにも無事だった青のバックにタージャのモンスターボールを入れて、肩に掛けた。

「母さんにお前のこと紹介したいし、オレ達も行くぞ」

「タジャ」

タージャは頷くと、ジャンプして当然のようにフードに入った。オレは散らばった本を避けながら部屋を出た。


******


1階のリビングに行くと、チェレンとベルが母さんに平謝っていた。

「騒がしくしてすみませんでした」

「あ、あのう、おかたづけ」

「片付け?いいのいいの。あたしがやっておくから」

母さん、心広いな。
そういや、よっぽどのことがない限り、怒られたことなかったな。近所の悪ガキと喧嘩してケガさせた時くらいか?

「ありがとうございます」

「手伝えなくてごめんなさい」

「そんなに気にしなくていいのよ」

母さん、心広すぎないか?
あの部屋、本当に酷いことになってんだけど。

「母さん、本当に手伝わなくて大丈夫か?流石に、あの惨状の部屋は母さん1人じゃキツいと思うけど」

「大丈夫よ。あなたはしばらく旅に出ていないし。それに、せっかくの旅立ちの日に掃除させたくないもの」

穏やかに母さんは笑った。

「ありがと」

チェレンとベルがいたからぶっきらぼうになってしまったけど、心から感謝の気持ちを述べる。

「どういたしまして。それより、そのポケモンはミスミの?」

母さんはフードの中のタージャに目を向けた。
そうだった。母さんにこいつを紹介しにきたんだった。

「ああ、そう。こいつはオレのパートナーのツタージャで、名前はタージャ。タージャ、この人はオレの母さんだ。母さんの隣にいるタブンネは、母さんのパートナーのももだぞ」

「ジャ」

タージャはぺこりと頭を下げた。
さっきまでの態度はなんなんだったんだ。認めた人間にだけ礼儀正しいのだろうか。

「そう、タージャというの。これからミスミをよろしくね」

「タブンネ」

にこりと笑って、母さんはタージャの頭を撫でた。タージャは気持ち良さそうに目を閉じた。
ニコニコ笑っているももも母さんと同じようなことを言っている気がする。母さんとももって似てるし。
母さんは顔を上げ、ベルとチェレンを見やった。

「さて、みんな。アララギ博士に会いに行くんでしょ?」

「はい。では、失礼しますね」

「あっ、あたしも失礼します」

ぺこりと頭を下げて、チェレンとベルはリビングから出ていった。
オレはバッグを担ぎ直した。

「じゃ、オレもそろそろ行くよ」

「ミスミ、これから大変なこともあるでしょうけど、あなたの傍にはポケモンがいてくれるわ。だから、何が起きても大丈夫。多くの人、多くのポケモンに出会って、素敵なものをいっぱい見つけて、旅を楽しみなさい」

「うん。それじゃ、いってきます!」

「いってらっしゃい!」

笑顔で送り出してくれた母さんとももに背を向け、オレは外に出た。
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