未だ見えぬ真実
チェレンと別れてジムの下見に向かい、オレは我が目を疑った。

「ここであってるんだよな……?」

現地の住人にも聞いた。タウンマップで確認もした。
それでも、目の前に立つ大理石の宮殿を思わせる建物がジムだとは、にわかに信じられなかった。一応、入口横のモンスターボール型のオブジェに「シッポウジム」と明記されているのだが、メインで書かれているのは「シッポウ博物館」の方で、事前に博物館の奥がジムになっていると聞いていなければ、見過ごしていそうだ。
サンヨウジムもレストランを兼用していてわかりづらかったが、まさかシッポウジムもとは思いもしなかった。
この調子だと、他のジムもそれとわかる外観をしていなさそうだ。うっかりスルーしないよう、タウンマップで確認する癖をつけておこう。

「とりあえず、入ってみるか。お前ら、くれぐれも中で騒ぐなよ」

とくにシーマとグリに言い聞かせるが、どんなに返事がよくても本当にわかってくれたかどうかは疑わしい。
危ないと思ったらすぐモンスターボールに戻せるよう、オレはベルトにつけたボールに手を置いた。

なるべく足音を立てないよう注意して博物館の中に入り、受付の挨拶に軽く返して奥に進む。
時間帯のせいか人もまばらな静かな館内で、まず目を引いたのが中央に君臨するドラゴンの全身骨格だった。
小さな角のついた頭蓋骨にはどこか愛嬌があるが、骨だけでもわかるずっしりとした体躯の威圧感がそれを打ち消す。背中から伸びた細い骨組みは翼だろうか。手前のプレートの説明によると、それで世界中を飛び回っていたらしい。

首が痛くなるほど見上げて、思わず、すげーと声を漏らしてしまう。
シーマとグリもオレの忠告を守って鳴き声こそ上げないが、明らかに目の色を変えていた。そう、目の色を……、

「シーマ、グリ、こいつとは戦えないからな」

つい先ほどまで宿していた好戦的な色を不満に変えて、二対の瞳がオレを見上げた。

仕方ないだろ。たとえ生前どれだけ強いポケモンだったとしても、今はただの物言わぬ屍でしかない。こいつらが攻撃すれば、10秒ともたず崩れ去るだろう。結果、オレが怒られて弁償、そして出禁。
そんな目に合うのはごめんだ。

いまだ2匹が諦めきれないといった様子でドラゴンの骨を見上げたのを認め、オレはさりげなくドラゴンの骨格標本と2匹の間に割って入った。だが、数分もしないうちに諦めたのか飽きたのか、シーマとグリはドラゴンの骨を囲む他の展示物に向かった。
そのことにほっとしつつも警戒は残し、オレとリクも――タージャは相変わらずフードの中だ――後を追う。

ドラゴンの骨以外の展示物はポケモンたちには退屈のようだが、オレにとっては面白いものだった。
ポケモンが武器として使っていた太い骨、未だ解明されていない文字が刻まれた石版、古代の祭りに使われていたと伝えられる仮面。
途方もない年月を経て現在に未知の時代を垣間見せる発掘物たちは、好奇心を大いに刺激する。ポケモンたちを視界の片隅に留めながらも、オレは古代の遺物に見入っていた。

その時、どこか覚えのある声が聞こえた。

「今のボクのトモダチとでは、すべてのポケモンを救いだせない。世界を変えるための数式は解けない」

それは囁く程度のものだったが、静かすぎる館内では少し目立った。

「ボクには力が必要だ。誰もが納得する力……」

そのくらいならいつもは気にも留めないのだが、この時は妙に気になり、声がする方に顔を向け、

「必要な力はわかっている。……英雄とともに、このイッシュ地方を建国した伝説のポケモン、ゼクロム!」

思いっきり顰めた。

「ボクは英雄になり、キミとトモダチになる!」

そこには展示された石に向かってわけのわからないことを宣言する、いつぞやの奇怪難解青年Nがいた。
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