強くなりたい
ポケセンのロビーに戻り、リクをボールから出してやった。
タージャの検査のついでに回復してもらったから、顔の傷は綺麗になくなっていた。
耳を垂らし、心配そうに見上げてくるリクの頭を撫でてやる。リクを安心させたいのもあったが、それ以上に自分を落ち着けたかった。

「大丈夫。タージャは明日になれば元気になるってさ」

リクもかなり気落ちしているようだった。
今にして思えば、こいつはタージャの体力が限界だったことに気づいていたんだろう。だから、あんなにタージャを戦わせないようにしてたんだ。
臆病で警戒心が強い分、周りをよく見てるやつだから。

「今回のことも、お前のせいじゃない。オレが気付いてやれなかったせいだ。自分を責めるなよ」

リクはぎゅっと目を閉じた。手のひらから震えが伝わってくる。
落ち着かせるために抱き上げる。だが、リクはするりとオレの腕をすり抜けた。そして、地面に降り立つと同時に駆け出した。

えっ?

一瞬思考が停止する。
自動ドアが開く音にはっとし、慌ててリクを追いかけて外に出た。


******


街灯に照らされた夜の道を、リクが走り抜けていく。
オレはその姿を見失わないよう、必死で足を動かした。

リクはなにがしたいんだ。

わけがわからないまま追いかけていくと、リクは2番道路へ出た。サンヨウシティの明かりがまだ見える辺りで立ち止まり、甲高い遠吠えを上げる。

「リク、どうしたんだ?」

リクはオレを無視して、何度も吠えた。咆哮が闇の中にこだまする。
がさりと近くの藪から音がした。
警戒しながらそっちを見やると、闇をぬってミネズミが現れた。敵意むき出しで、こっちを睨んでくる。
ミネズミは尻尾を振り、声を上げた。それに呼応するかのように、その後ろからミネズミの群れが出てくる。

これは、やばいかもしれない。

「逃げるぞ!」

だが、リクはその場を動こうとしないどころか、ミネズミ達を煽るように再び吠えた。
先頭に立つミネズミがリクに向かって駆け出す。
リクは動かなかった。いや、動けなかったのだろう。
ミネズミの攻撃が直撃し、リクはふっ飛ばされた。

「リク!」

リクは何度か地面に叩きつけられるように転がり、木にぶつかって止まった。
きゃいんと、甲高い鳴き声が響く。耳を伏せたリクは弱々しく顔を上げた。
そこに、ミネズミの群れが襲いくる。

このままじゃ、袋叩きだ。
なんとか、ミネズミ達の注意をリクから逸らさねえと。

バックに手をつっこむ。指先に丸いものが触れた。
これでいいか。
オレはリクを攻撃しようとしていたミネズミを狙って、オレンの実を投げた。
それはうまく先頭のミネズミにあたった。先頭のミネズミがこっちを振り返る。つられて他のミネズミ達も視線をオレに向けた。

よし、注意をひくことには成功した。

「なあ、ミネズミ。木の実をやるから、オレ達のことは見逃してくれないか?」

リクがいる方とは逆方向に、今度はオボンの実を投げる。
群れの中から1匹だけ飛び出し、恐る恐るといった体でオボンの実を拾い上げた。
そこにモモンの実やオレンの実なんかを次々に放り投げていくと、ミネズミは1匹、また1匹と木の実を拾いにいく。
手持ちの木の実がつきる頃には、ミネズミ達は完全に木の実に夢中になり、リクから離れていった。

よし、いまのうちに。

倒れたリクを抱き上げ、オレ達はそっとその場を離れた。
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