「………」


もう日も落ちて暗くなった教室、電気もつけずに一人でいる俺の手の中にあるのは一冊のノート。昨日提出するのを忘れて、明日こそ出さなければならなくなったプリントを忘れたために、それを取りに来た、それだけだったのに。

机の中に手を突っ込んですぐに指先に伝わる違和感。ザラリとしたいかにもな再生紙の感覚が伝わるはずだったのに、伝わってきたのはそれとは違う感覚。覗き込んでみるとそこにあったのは、飾り気も何もない一冊の大学ノートで、誰かが間違って入れたのか、と表紙を確認しても何も書いていない。他意はなく、忘れ物ならば持ち主に届けなければ、と思い中身を確認した。

その最初の行から恋人が相手に送るような、甘い言葉の数々、いまどき交換ノートなんて。見るのが悪いという感情は持っていたはずなのに、その文章の優しさに惹かれて目が次の段、次の段へと進んで行ってしまう。

次へ次へと進んだ瞳が一番最後に書いてあった署名を見つけて、まさに心をぐっと握りつぶされたような感覚が俺を襲う。

交換ノート…なんて、いかにもあいつの考えそうなことだ。メールじゃないのは形を残したかったからか、それともすれ違いが多い二人だからか。朝、誰よりも早く来るあいつで、放課後、誰よりも遅く帰るあいつだからこそ成り立っている二人だけの制度。

そんな二人の秘密が今、俺の手の中にある。恐らく今日席替えがあったこと、隣のクラスのあいつは知らなかったのだろう。そう、俺の席は以前のナマエの席だ。

これをきっかけに、ナマエへの思いを断ち切れたらいいのに、なんて考えるだけ無駄なことを考えて。


「…っはははは」


結局無理だと結論付いた俺の口から漏れた乾いた声が、誰もいない教室の闇に吸い込まれていった。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -