夏の始まり、金魚すくい ----------------------------------------------------------------------------- 「名前、夏祭り行こうぜ!」 私の夏は、彼の一言で始まる。 私と平助は幼なじみ。 昔から中の良かった私たちの中では、毎年一緒に夏祭りに行くことがいつの間にか恒例となっていた。 「今年は絶対平助に金魚すくいで勝つ!」 「いつも負けるくせによく言うなー」 「う、うるさいなっ!」 私は浴衣で、面倒くさがりやの平助はいつも私服。 そしてこんなやり取りも毎年恒例で、それが楽しくて仕方がない。 ―ああ、今年も夏が始まった。 そして次の日、近所の神社の前で平助を待つ。 浴衣よし、髪型よし、うん、今年も大丈夫! 「それにしても平助遅いなぁ」 いつもならこの時間にはやってきてるーというか、いつも私より早く来てるくせに。 すると、向こうから走る音が聞こえてきた。 「悪い、遅くなった!」 「もー平助、おそ……」 私は一瞬目を疑った。 「なんだよ、そんなにジロジロ見て……似合わないか?」 平助は、浴衣を着ていた。 「だって平助、いつも私服じゃん!」 私が言うと、平助は恥ずかしそうに人差し指で頬をかく。 「総司と一くんに名前と夏祭り行くんだって言ったらさ、絶対浴衣で行けっていうんだよ。毎年私服だし、今更って言ったんだけど……」 たくさん持っているからということで、はじめくんが浴衣を貸してくれたそうだ。 ああ、確かにはじめくんは浴衣とか着物似合いそうだな…… …………でも、それより。 「俺、浴衣似合わないかな?」 幼稚園以来の平助の浴衣姿。 それはなんだか、いつもの幼なじみではない違う人を見ているようで― 「ふ、ふつうじゃない?」 「じゃあいっか。じゃあほら、行こうぜ!」 「う、うん……」 ―平助が、ものすごくかっこよく見える。 私はりんご飴やわたあめを食べて、平助はたこ焼きや焼きそばを食べる。 時々お互いのを交換したりして、それは毎年通りだった。 いつもはしゃぎまくる平助だけど、今日は浴衣だから抑え気味。 それでも他の男子高校生に比べれば断然はしゃいでいるけれど。 ……うん、なんか平助の浴衣姿にも見慣れてきた……気がする。 そして、いよいよ金魚すくい。 毎年白熱した戦いを見せる私たちはもうお店の常連で、今年も来たんだな、とおじさんに笑われた。 「よーし平助、勝負だ!」 そして私がポイを水に入れようとすると― 「ちょっと待て、名前」 平助に止められた。 「え、何もう、陽動作戦?」 「違うわ!……あー、えっと」 なんで平助は顔を赤くしてるんだろうか。 すると平助は、ゴクリと息を飲んで私を見た。 「俺が勝ったら言いたいことあるから!」 そうして勝負の結果― 「今年も負けたああ!」 12匹と10匹で、私はまた平助に負けた。 もう、なんで1度も勝てないんだろ。 「で、言いたいことってなに?」 どうせパシリとかなんかだろう。 何買ってこーい、とかなんとか。 そんなことを考えていると、平助は顔を上げて、私の目をまっすぐと見た。 「名前、好きだ。俺と付き合ってくれ!」 私の持っている金魚の袋が、ポチャンと揺れる。 「……へっ……!?」 私は、自分の顔がこの金魚のように赤くなっているのがわかった。 夏の始まり、金魚すくい 彼が浴衣を着てきた理由― それは彼女に告白するため。 NEXT→あとがき → Back |