事故で気付いた恋だって
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好きな人がいる。
「苗字! 教科書忘れたから見して!」
「えー!? またあ!?」
「ごめんって!」
「まったくもー」
…口ではこんなことを言っているけど、
(本当は嬉しい…なんて)
言えるわけないよね。
「しょうがないなあ」
机をくっつけて教科書を見せると、平助はニッと笑みを浮かべる。
「さすが苗字! 俺もいい友達を持ったなーっ!」
「調子のんなっ!」
「いてえっ」
気付いてもらえないのは苦しい。
(けど…友達でいられなくなるくらいなら、)
私はこのままでいい。

「早く! 遅れるよ!」
「あーもう! なんで今日に限って日直なんだよ!」
「順番なんだからしょうがないでしょ!」
今日の部活は土方先生に「絶対に遅れるな」って言われてたのに…!
焦りつつ急いで階段を下りる。
「早くしろって!」
「待っ、て―」
あ。
やばい、滑っ…
「苗字!」
落ちる―…!
そう思って目を瞑る―が。
(あ、れ…?)
痛みはいつまでも襲ってこない。
その代わり、
「ん…」
唇に触れる温もり。
目を開けるとそこにあったのは、
「…ん…んん!?」
平助の顔だった。
平助、抱きとめてくれたんだ…じゃ、なくて。
この温もりって、もしかして―
(平助の…唇…?)
…唇?
「えええええええええええっ!?」
「おい、ちょ…っ!」
私は立ち上がると、思わず走り出していた。

「は…はあ、はあ…」
思いっきり走り抜けると、いつの間にか中庭まで来ていた。
「ど、どうしよう…私平助と、キ、キス…!」
事故とはいえ、
「好きな人と…キス、しちゃった…」
なんだろう、この気持ちは。
嬉しい?
(なんか微妙…?)
嫌?
(嫌…ではない)
「どうしよう…」
明日から、どんな顔で平助と会えばいいの?
そもそも、
「部活…どうしよう!」
土方先生に殺される…!
でも今平助と顔をあわせることはできない!
「あああもうどうしよう!」
土方先生に殺されるか、平助と顔をあわせるか…
「どっちも無理…だけど、殺されるしかない!」
悩んだ挙句、私は殺されることを選び、家に帰宅した。

次の日からやはり私は平助と顔をあわせることができなかった。



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