君の罠に騙されて ----------------------------------------------------------------------------- 恐る恐る、と箸で「それ」を持ちあげる。 「う、な、なんだこれ…」 見た目形ではもう何か分からない。 ただの、黒い物体。 「こんなん食わなきゃなんねえのか…?」 「つかんだものは絶対に食べるのがルールですからね」 「くそっ…」 少し躊躇したあと、意を決して口に入れる。 「う、ぐ…ぐあっ…」 そして―土方さんは、その場にパタリと倒れた。 「あれ? 土方さーん? おーい」 名前がペチペチと頬を叩くが、起きる気配はない。 「もー…せっかうの鍋パーティーなのに3人になっちゃったじゃん!」 未だに残っているのは僕、名前、そして一くん。 僕は土方さん(死体)を挟んで隣にいる一くんを見る。 すると一くんも同じことを思っていたようだ。 ―どうしてこうなった、と。 事の始まりはつい2時間ほど前だった。 部屋でゴロゴロしていると、ピリリと携帯の音が鳴る。 差出人は…名前だ。 愛しい彼女からのメールだ、デートのお誘いかな?と思ったが― 『鍋パーティーしようよ!』 そんな予想は完全に外れ。 『具材は各自持ち寄りで、場所は一くん家! じゃあ30分後にねー!』 鍋パーティーかあ………………30分後? 「早すぎでしょ…」 そういいつつ僕は近くのスーパーで材料を買い、少しして一くんの家に到着。 「ああ、総司か…入れ」 そのとき一くんがすでにグッタリしていたのは、よく記憶に残っている。 「おー、総司!」 「遅かったな」 中へ入ると土方さん、左之さん、平助、そして名前と、もう全員揃っていた。 遅かったって…今丁度30分なんですけど。 僕が1番最後ってのはちょっと意外だったな。 「じゃあ始めよっか!」 名前が出汁の入った鍋を、一くんがカセットコンロを持ってくる。 それをテーブルの上にセットすると、名前が立ち上がって歩き出す。 「じゃあ電気消すよー!」 ……………うん? 名前が言ってすぐにパチンと電気が消え、真っ暗やみの中でコンロの炎だけが揺らめく。 「名前…どういうこと?」 「どういうことって…鍋パーティーって言ったら闇鍋に決まってんじゃん!」 ………やばい。 暗闇の中では誰が何を入れたか、なんて分からない。 つまり― 『『『『『名前の料理を食べたら終わりだ…!』』』』』 全員の思いが重なった瞬間だった。 「じゃあ私からいくよー」 名前の声の後、ポチャンという音だけが響く。 くっ…1番に入れたのか…! 「じゃあ次は俺が行く」 この声は土方さん。 「じゃあ次俺ー!」 「俺も入れるぞ」 平助、左之さんと続く。 「俺も入れるか…」 控えめな音がする。 これは一くんか。 「…じゃあ僕も入れようかな」 買ってきた材料をポチャン、と入れる。 …意外と闇鍋にぴったりな材料だったかもしれない。 「じゃあ煮えるまで待とうか!」 さあ、 地獄の時間の始まりだ。 「そろそろかなあー?」 カパ、と蓋の開く音がする。 そして― 「う…」 「なんだこの匂い…!」 部屋は一気に変な匂いでいっぱいになる。 「みんな何入れたの…!?」 もうこの状態じゃまともな物なんか入ってないだろう。 「じゃあ順番に食べていこうか! 最後まで残ってた人が勝ちだね!」 勝敗までつくのか…! 僕はギリッと箸を握りしめ、「来るんじゃなかった」と後悔していた。 → Back |