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え? ここ感動の場面じゃないの?
-好きだ-
「斎藤!」
廊下で斎藤の後ろ姿を見つけ、私は叫ぶ(くらいの大きさで呼びとめる)。
「っ! 苗字…」
斎藤は恐る恐る、という感じに振り返る。
そして私は息を吸い―
「「話がある!」」
…あれ? かぶった?
「斎藤、苗字、うるせえぞ!」
「すみません副長!」 「さっきから注意されてばっかりだな私!
」
また怒られそうになったので、とりあえず近くの斎藤の部屋に避難することにした。
「………」
「……………」
無言が続く。
正座して向かい合うも、お互い何も言おうとしない。
だって…なんて言えばいいんだ!?
「その、苗字…」
私が考えていると、斎藤が口を開いた。
「な、なんだ…?」
「俺は最初…苗字はバカだと思っていた」
…えっ?
「だが最近、やっぱりバカだということを再認識した」
……えっ?
「それでも俺は、そんな苗字が好…」
「待ったあああああああああああ!!」
私は斎藤の言葉を止めた。
だって…待って。 これ、何!?
私が散々貶されたあとに…何!?
あれ…? 私、ほんとにこの人のこと好きなのかな…?
本気で思い始めた私だったが、斎藤が咳ばらいをし、再び向かい合う。
「先程はあんなことを言ってしまったが…俺は、あんたが好きだ」
斎藤が顔を赤らめて言う。
…………うん。
「なんだこれ! あれ!? うん!? これ嬉しいんじゃないの!?」
さっき貶されたせいで微妙だ!
「お前は俺が嫌いか…?」
赤い顔のままで少し眉を下げて言う斎藤に、
「嫌いなわけないだろ…! 私も…斎藤が、好きだ!」
私もそう告白する。
「……………そうか」
「ほら! 斎藤だって微妙な顔してるじゃん!」
「してない! ただどう反応していいか迷ってるんだ!」
「その時点でおかしいんだよ!」
ほんとこれ感動の場面じゃないの!?
「はあ、なんで私たちの告白はこんなのなんだよ…」
ふう、と息を吐く私を、斎藤は―
「…悪い」
と、抱きしめた。
優しく抱きしめられ、私は胸がドキッとする。
「こんな告白になってしまってすまなかった…」
「あー…私こそ、悪かった」
「俺は…お前が好きだ、よかったら、恋仲になってくれ」
「…はい」
私は斎藤の腕の中で、そう頷いた。
こうして少しおかしくなったけど、私と斎藤は恋仲になったのだった。
*第一章 完結*
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