ハローハロー宇宙人さん

3

救急外来の待合室に座る。

もう会えなくなるかもしれないという事実がのしかかってくる。

水野さんは今治療中で、出血量は見た目ほど酷くないと聞いたクラスメイトはすでにここにはいない。


そういえば、家に家族がいたことは無かった。
微妙に話が通じない瞬間もあった。

何より、初めて話したときに、まるで当たり前の事の様に宇宙人と言っていた。

思い出せばきりがない。
けれど、まさか目の前の人が宇宙人だとは思わなかった。

転校なんて、さすがに大袈裟じゃないのかとか、もしも現実になってしまったらどうしようとか、頭の中がごちゃごちゃと考えてしまう。

短い筈の時間が長く感じられた。

診察室から出てきた水野さんは力なく笑っていた。

「ごめん。迷惑をかけた。」

首を横に振る。その笑い方がいつもとあまりにも違いすぎて、ああ、クラスメイトの言っていたことは本当なのかと思う。

涙があふれる。

「必ず、戻ってくるから。」

水野さんはそういってそれから、さっきみたいに俺の髪の毛を撫でる。

「好きだよ。ずっと……。」

それだけ水野さんは言った。
俺もだと返したかったけれど、それはスーツの大人たちが割って入る。
大人たちにそのつもりは無かったのだろう。
けれど、言葉を紡ぐことはできなかった。

「失礼ですが、水野 涼介さんですか?」

スーツの男に話しかけられて、水野さんは大きくため息をついて「はい、そうです。」と答える。
大人たちにちらりと見られただけでひるんでしまう。

「こちら確認書類です。
それからお兄様がステーションでお待ちに――」

俺にはよく分からない話をして「それでは、こちらです。」と大人たちが案内しようとしている。

水野さんがこちらを振り返る。

「約束だ。」

それだけ言うと、水野さんは大人たちに連れられて行ってしまった。
まるで俺の事も、見えてなかった風だったし、医者に説明すら求めていない。それが異様な光景だと思うのに、何もできなかった。



それきりだった。
翌日からもう、水野さんは学校に来ることは無かった。

家に行ったけれど、そこはすでに空き家の様で、誰もいない。

彼がどこの星出身で、本当は誰なのかさえも分からなかった。

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