君の秘密は腹の中に(けも耳系)

2


翌日見たイノリはいつもと変わらなかった。
まるで昨日のあれは全部夢だったんじゃないかという位、イノリは普段と同じだった。

「ごめんねー、迷惑かけて。
今皆と協力して、シノにも仕事を色々振れるように調整してるから。」

けれどそう言われて、ああ覚えているのかと思う。
それから、そういえばこの場所で嫌なことを言われることが無かったという事に気が付く。

そんな事にも気が付けない位周りが見えなくなっていた事を恥じる。

「ご無理しない様にしてください。」

それだけ絞り出す様に言うとイノリは笑った。
その笑顔をどこかで見たことがある気がしたが覚えていなかった。



程なくして、俺も現場に出る様になった。
目立つだろうと思ったが、それい自体はさほど問題出ない場合も多かった。

要は、警察機構の人間だと思われなければいいのだ。

あるときは、バンドマンの振りをして、別の時は格闘オタクとの振りをして、内偵を行った。

荒事はどうしてもある。
蹴りを一発入れて沈んだ被疑者を押さえ付ける。

「さすが強いですねえ。」

イノリに言われニヤリと笑う。
ようやく対等になった気がした。


それから、何故か理由は無いが、時々イノリと飲むようになった。
といっても殆どが彼の家でだった。
知り合いにあっても困るというのがイノリの言い分で、いかにも厳ついドーベルマンと一緒にいるところを見られでもしたらこれからの仕事上面倒なことになることもよく分かっていた。任せられる種類の仕事が違うのだ。厳つい男がいても問題ない仕事もあれば、そうでない仕事もある。

それにイノリの家といっても、本当の家なのかさえも怪しい。

といっても酒はお互いに好きではないので大して飲みはしないのだ。
けれど今日は珍しく麦酒の瓶を出して飲んでいた。

ずっと内偵をしていたテロリストが逮捕された話は俺も知っている。
けれど、上機嫌とは程遠いいつも通りの様子でイノリは麦酒をあおる。

「もうその位で……。」

止めたことがいけなかったのだろうか。
イノリは舌打ちをすると。切られていない尻尾を握って逆の手で腰を押さえつけられた。
振り返り様に睨んでやったが、イノリの表情は昔から変わらない食えない笑顔のままだ。

「なにするんだよ。」

犬種特有の唸るような低い声が出る。
戯れなのか、何か許せないことがあったのかは知らないがこういう事は止めて欲しかった。

「ずっと、もの欲しそうな顔で俺の事見てきたんだ。
そろそろ諦めろ。」

いつもは、眼球があるのか怪しい位細められている目を開いてイノリは言う。いつもと違う男らしい喋り方が、彼の元々の口調であることがうかがえる。

「いつから……。」

自分の声が怯えをはらんでいることに気が付いて、大きく息を吐く。
逃げるかどうか一瞬迷う。

その迷いがいけなかったのだろう。

イノリが体重をかけて俺の動きを封じる。

「高校の時にはもう、気が付いていたよ。」

今よりずっと露骨に俺の事見ていただろう。イノリは言う。

「それの仕返しかよこれは。」
「いや。そんな訳ないでしょう。」

イノリは、俺もずっと怖くて直接は手を出せなかった。といって自嘲気味に笑った。

「俺は怖かったか?」
「いや、そうじゃないです。
確かに体格は厳ついけどシノは綺麗だし。」

耳は黒いビロードみたいで可愛いよね。
押さえ付けたままだったイノリはのしかかって、俺の耳を撫でた。

ビクリと震えてしまう。

「内偵中、嫌なものを見たんだ。
忘れさせてくれるか?」

それがどんな意味で言ったのか、分からないほど鈍感にもなれないし、子供でも無かった。
けれど頷くこともできずただ黙っていると、下穿きごとスラックスを脱がされる。

思わず逃げようと這うがそれはかなわない。

半ば無理矢理指を押し込まれる。
ぬぷぬぷと沈んでいく指と、異物感に体を震わすと再び耳を舐められる。

羞恥でどうにかなりそうだった。好きあっているのかさえ分からないのに、こんなことを許してしまうなんて自分でも馬鹿だと思う。

「背筋まできれいについているねえ。」

筋肉の溝にそって指を這わせるイノリに思わずのどの奥で小さく喘ぐ。
そんな声が自分の口から出る事を今まで知らなかった。

後ろの穴を使うのは今日が初めてだが、一人で慰めている時ですらそんな声を出したことは無かった。

思わず唇を噛んで声を抑える。

気が付いたらしいイノリは俺の唇に触れるがとがめることは無かった。

中に入れられた指はもう三本に増えていた。
お互いにずっと言葉を交わさない。

不意に、尻尾のはえぎわを撫でられる。
もみこまれる様に撫でられ思わず腰が引ける。

くすぐったいだけではないその感触に戸惑っていると、イノリが笑った気がした。

それが合図だったのだろう。

イノリが一旦手を離す。ガチャガチャという音がベルトだとすぐに気が付く。
もう、逃げたいとは思わなかった。

内側に入り込む熱にシーツをかきむしる。
はあはあという、イノリの息づかいがやけに大きく聞こえる。

顔が見えなくて良かったと思う。
自分の顔を見られるのは勘弁してほしいし、イノリが自分の事をどんな顔で抱くのか見たくは無かった。
それが無機物を見る様な目であってもそうでなくても、とにかく見ないのが一番いいのだ。

抽送を繰り返しながらイノリは再び俺の耳を舐めた。
それから、項を、首を、最後に肩甲骨に噛みつかれ思わずのけぞった。

反射的に中が締まる。後ろでイノリが息を詰めた。

肩を掴まれると容赦なく中を突かれる。

「あっ、あっ、あ゛っぅ。」

イノリの大して鍛えている様に見えない腕になんでこんな力があるのだろうか。
逃げようとした体を押さえ付けて最奥まで貫かれ悲鳴に似た声を上げる。

愛しているとは口が割けても言えなかった。



「今日はシノと一緒だからよく眠れそうだ。」

怪我をして帰ってきた日と同じ様にぼんやりとしながらイノリは言う。
その時と違うのは、俺も疲労困憊でうとうととし始めてしまっていた事だ。

徐々に沈んでいく意識の中で、優し気に笑ったイノリが俺の頭を撫でた気がした。



お題:獣人のはなし。強くてかっこいい獣人が右。

[ 117/250 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
[main]