空色

朝焼けの情景

「なあ、今度の三連休親いないし、うち遊びにこないか?」

河澄と二人並んで帰っていると、不意にそんな事を言われた。

「そ、それって泊りってこと?」

親がいないとわざわざ言うってことはそういうことだろうか。
付き合いだしてから3ヶ月経つ。そういうことなのだろうか。

変に言葉が詰まってしまう。

「ああ、夕飯ピザでもとって食べよう。」

そう言われて、あ……と思った。
多分、自分が思っていた事と河澄が思っていた事は少し違ったのだろう。

自分が期待してしまったことに、その期待が勘違いだったことに気が付いて恥ずかしくなる。
持っていた通学鞄の持ち手をギュッと強く握る。

「ん?ああ、俺もそういうつもりで呼んでるよ。」

河澄は俺の方をチラリと見てそれから、付き合う前より少し優しくなった喋り方で言った。

思わず横を歩く河澄を見つめてしまった。

河澄は照れたみたいにぶっきらぼうに言った。

「いや、普通好きな奴家に招くんだから期待位すんだろ。」

俺はいよいよ真っ赤になって

「……お邪魔させてもらう。」

とだけぽつりと言うのでいっぱいいっぱいだった。

* * *

何度か河澄の家はお邪魔したことがあった。
煙草臭いかと思った河澄の部屋はとても綺麗で驚いた記憶がある。

「さすがに、親の前で吸ってたら怒られるだろ。」

匂いで多分気が付かれてるとは思う。ばつが悪そうに河澄はそう言った。
でも、知っている。最近、河澄の煙草の本数が減っていることも、それが俺に気を使っているって事も。

恋人が自分の為に譲歩してくれることが嬉しかった。
あまり我儘になりすぎるのも怖かったけれど、口寂しかったらキスさせてといつもぶっきらぼうな河澄に似合わない事を言われて胸がぎゅっとしたのだ。

定位置になっているベッドの前のクッションに座る。
隣に河澄が座った。いつもより距離が近い気がするのは多分勘違いでは無いのだろう。

手慣れてるなとか、思わないわけじゃないし、河澄の過去に嫉妬わけじゃないけれど、河澄は今を俺にくれたのを知っているからそれで充分だった。

キスをしながら服を脱がされる。
服を脱いでしまったら、残るのは薄っぺらい男の体だ。

河澄が別にゲイじゃないってことは知っていた。
だから、いざ、俺の裸を見て気持ちが萎えてしまうかもしれないことが怖かった。

器用に服を脱がす河澄の手首を握って動きを止める。
手が小刻みに震えているのが分かる。

馬鹿みたいだけど、やっぱり女の方がいいって言われるのが怖くて怖くてたまらなかった。

「ん?ああ。」

河澄は反対の手で俺の手を引きはがすと、自分の股間に押し付けた。
既に反応して堅く勃ち上がったそれに触れて、思わず息を飲む。

「自分でも引く位興奮してるだろ。」

河澄は言った。
それでやっと安心して河澄に体を預けることができた。

全身くまなく撫でられる。
自分が今までどれだけ河澄との行為を待ち望んでいて、今も期待しているのか分かってしまうみたいに体が反応する。


腰骨を撫でられて、ビクリと震える。
そんなところまで快感を拾う様になっているなんてと恥ずかしさがつのる。

「もういいか?」

確認するようでいて、それは俺に選ばせるための言葉じゃなくて、最後通告みたいなものだって分かっている。

うつ伏せになっているから見えないけれど、切っ先があてがわれたのは分かった。
ゆっくりと自分の中に河澄が入ってくるのが分かった。

シーツを握り締める。
一番奥まで入り切ったところで河澄が覆いかぶさってきた。

首筋に顔を埋めて耳元で囁くみたいに話す。

「すっげえお前の中きもちいいよ。」

それだけで、震える位の多幸感が体の中を駆け巡った。

「いっぱい、動いて。」

舌打ちをしてから河澄は耳の下あたりに噛みついた。
それから、バツンバツンと音が聞こえる位中をかき混ぜられて、痛みと違和感とそれを凌駕する快感にただただ喘ぎ続けた。

* * *


曙色ににじむ朝焼けを見て涙がこぼれる。
今隣で眠っているのが河澄で良かった。
先程まで触れていた手のやさしさを思い出す。河澄はまだ寝ている。

あの時の夕焼けと似た色がしている筈の朝焼けは、それよりずっとずっと幸せに満ちた色をしていた。

俺はもう一度布団に潜り込むと、河澄の胸元に顔を埋めた。
まだ、寝ている筈の河澄は無意識なのだろうか、俺の体に腕を回して抱きしめた。

「河澄、ありがとう。」

それだけで、大泣きしてしまいそうな位幸せだった。



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