ちりんちりん。
猫につけた鈴のような、そんな音で呼ばれて今日も行くのは、傍若無人を体現したような主の部屋である。
さて、今日はどんな無理難題をあの唇が紡ぐのか。
*
昔馴染みの家で働く執事をしている。
椅子に座る様は正に上に立つ人間と、言葉に必要ない王者の貫禄。紳士然としたとは言い難い傍若無人な態度ながら、やはり取引先にそのファンというか、傍若無人、悪辣と言っても過言でない手腕と力を見せるからそれなりに通ってしまうのだ。
それがさらにこの椅子にふんぞり返る男に拍車をかけているんだろう。
「お呼びですか、ご主人様」
「やめろ」
「…いかようなご用命でしょうか」
「やめろと言った」
「なんだぁ」
人前でも人影でも主を立てなければならないのは当然だが、主、XANXUSは二人の時はこの主は敬語をいやがった。
執事を始めた当初から嫌がったので聞いてみたことはあるのだが、「お前の敬語は慇懃無礼に聞こえるムカつくからやめろ」が答えだった。オレは昔からこいつには、少なくとも誰にも媚びない姿勢には敬意を払うくらいには尊敬しているからあながち慇懃無礼をしているつもりもないのだが…聞こえるというならば仕方がない。
「昨日会談した政治家に圧力かけるからいくつか尻尾引っ張ってこい」
「了解だぁ」
コイツはいくつか執事の仕事の内容というものを勘違いしている気がするが、まあ出来ないことを言っているわけでもないので聞いている。
「ところで」
ぐいっ。
男のくせに、とは思われるかもしれないが腰まである髪を邪魔ではないがXANXUSにうっとおしいと言われるので一つにゆわいている。その、XANXUSが曰くにリードだのしっぽだの言われるそれを引っ張られ頭がのけぞる。
「いっ…なっ、なにすんだぁ!」
「これ、まだ使ってんのか」
「!るせぇなぁ」
XANXUSが髪を掴む手を払いのける。
XANXUSが言っている『これ』とは髪留めである。その昔XANXUSが、本当に仕えた初期の初期にくれた髪留めだ。
昔から、替えることなく使っている。
こいつから物を貰うなんて事自体がレアだったのもあり――あれから肌身放さずつけている。
「……オレの勝手だろぉ…」
「古くせぇ」
「……」
「替えろ」
それはオレの勝手なはずだ。ここまではっきり替えろと言われたのは初めてだが。
言われたら、替えざるをえないだろうが。
「………」
不服そうな顔が見えたのかXANXUSはにやにやと笑っている。オレの不服な顔が大好物、とばかりに視線が体をなめていらいら。
「おら」
もう良いからさがれ、の意味かと思った。
しかしXANXUSはいつもはらう仕草をする手首を握り拳を突きだしている形で固めている。
らしくないがグータッチと判断してグータッチしたらそのまま頬をぶん殴られた。
半回転しながら転がればXANXUSが握り拳を叩きつけるように何か投げ捨てられる。
「施しだ」
投げ捨てられて体の上にはらはらと落ちたのは新しい髪留めで、ああ、うん。
あれだ、何でだろう。8年ぶりのプレゼントに喜ぶべき事のはずなのに殴られ崩れ落ちたところに物を投げ捨てられると言うのは割とガチな施し臭がする。
しかしそれでも口からでるのは。
「……ありがとよ」
「ふん」
この不条理に慣れてきたのは果たして良いことだろうか、悪いことだろうか。
社会を知ると言うべきなのか。
意地悪で不器用な君
(まあこたえは知っている)(恋に落ちた方が悪いと言うことだろう。)
20130823(title:反転コンタクトさま).
猫につけた鈴のような、そんな音で呼ばれて今日も行くのは、傍若無人を体現したような主の部屋である。
さて、今日はどんな無理難題をあの唇が紡ぐのか。
*
昔馴染みの家で働く執事をしている。
椅子に座る様は正に上に立つ人間と、言葉に必要ない王者の貫禄。紳士然としたとは言い難い傍若無人な態度ながら、やはり取引先にそのファンというか、傍若無人、悪辣と言っても過言でない手腕と力を見せるからそれなりに通ってしまうのだ。
それがさらにこの椅子にふんぞり返る男に拍車をかけているんだろう。
「お呼びですか、ご主人様」
「やめろ」
「…いかようなご用命でしょうか」
「やめろと言った」
「なんだぁ」
人前でも人影でも主を立てなければならないのは当然だが、主、XANXUSは二人の時はこの主は敬語をいやがった。
執事を始めた当初から嫌がったので聞いてみたことはあるのだが、「お前の敬語は慇懃無礼に聞こえるムカつくからやめろ」が答えだった。オレは昔からこいつには、少なくとも誰にも媚びない姿勢には敬意を払うくらいには尊敬しているからあながち慇懃無礼をしているつもりもないのだが…聞こえるというならば仕方がない。
「昨日会談した政治家に圧力かけるからいくつか尻尾引っ張ってこい」
「了解だぁ」
コイツはいくつか執事の仕事の内容というものを勘違いしている気がするが、まあ出来ないことを言っているわけでもないので聞いている。
「ところで」
ぐいっ。
男のくせに、とは思われるかもしれないが腰まである髪を邪魔ではないがXANXUSにうっとおしいと言われるので一つにゆわいている。その、XANXUSが曰くにリードだのしっぽだの言われるそれを引っ張られ頭がのけぞる。
「いっ…なっ、なにすんだぁ!」
「これ、まだ使ってんのか」
「!るせぇなぁ」
XANXUSが髪を掴む手を払いのける。
XANXUSが言っている『これ』とは髪留めである。その昔XANXUSが、本当に仕えた初期の初期にくれた髪留めだ。
昔から、替えることなく使っている。
こいつから物を貰うなんて事自体がレアだったのもあり――あれから肌身放さずつけている。
「……オレの勝手だろぉ…」
「古くせぇ」
「……」
「替えろ」
それはオレの勝手なはずだ。ここまではっきり替えろと言われたのは初めてだが。
言われたら、替えざるをえないだろうが。
「………」
不服そうな顔が見えたのかXANXUSはにやにやと笑っている。オレの不服な顔が大好物、とばかりに視線が体をなめていらいら。
「おら」
もう良いからさがれ、の意味かと思った。
しかしXANXUSはいつもはらう仕草をする手首を握り拳を突きだしている形で固めている。
らしくないがグータッチと判断してグータッチしたらそのまま頬をぶん殴られた。
半回転しながら転がればXANXUSが握り拳を叩きつけるように何か投げ捨てられる。
「施しだ」
投げ捨てられて体の上にはらはらと落ちたのは新しい髪留めで、ああ、うん。
あれだ、何でだろう。8年ぶりのプレゼントに喜ぶべき事のはずなのに殴られ崩れ落ちたところに物を投げ捨てられると言うのは割とガチな施し臭がする。
しかしそれでも口からでるのは。
「……ありがとよ」
「ふん」
この不条理に慣れてきたのは果たして良いことだろうか、悪いことだろうか。
社会を知ると言うべきなのか。
意地悪で不器用な君
(まあこたえは知っている)(恋に落ちた方が悪いと言うことだろう。)
20130823(title:反転コンタクトさま).