「あのね、私ボスのこと好き」
「……は?」
部活の後輩に告白されて固まった。
*
部活に新入生が入った。
美人でスタイル良しだがやけに苦労性な表情をした頼りになるしっかり者と、少し頭が足りなさそうな小動物的な落ち着きのない動きをする幼児体型まっしぐらなガキ。
後者は二つしか離れてないなんて嘘だろ、と思う。
しかし聞くところによれば入試での学年での順位は片手の指で数えられる順位だという。人は見かけによらない、とはこのことか。
因みに美人の方は言うに及ばず勉強では首席、新入生代表の挨拶をしていた。
まあしかし、勉強が出来るのとは関係なく――ちびガキ――幹部は部活では成績はダメダメだった。
運動でも座学でもない。
――お菓子研究部。物作り料理系の部活である。幹部は手先が不器用だった。
ちなみにオレは自分の部活を言うと驚かれるのだが、俺自身スクアーロからしつこくしつこくしつっこくストーカーかコイツと疑うレベルに誘われ半年。いい加減に根負けして幽霊部員で良いなら入ってやるからストーカーを辞めろ、と条件だして入っただけで最後に顔出して完成品を摘まむだけ、というオーブンを触ったこともないような幽霊部員だ。
「………」
幹部が皿と向き合っていた。
普通完成品は大皿に空けて皆で食べるのだが、幹部のは見るからに黒こげなので混ぜられなかったようだ。
美人の、補佐のはもう先輩のに混ぜても問題ない、どころか先輩のより上等で先に売れる。
幹部は皿を見つめながらボリボリ虚しくかじっている。後ろから手を伸ばして皿から一枚奪ったら幹部が手を追って振り返った。
「あ。ボスだ!」
「何でボスなんだよ」
「スクアーロ隊長が、XANXUS先輩は喧嘩で負けなしで強いからボスなんだって言ってた!私もボスって呼んでいい?」
因みにスクアーロは隊長ではなく部長である。
直すつもりもないがいちいち頭が足りなさそうだ。頭がいい馬鹿の見本。
「…好きに呼べ。お前は、」
「幹部!えーっと、新入生の小さい方!」
「見りゃわかる」
「幹部って呼んでね!」
「……幹部」
「うん!」
にっこにこしながら自己紹介してきた幹部の、先ほどの皿から摘まんだ黒こげクッキーを口に放り込めば予想に反さずボリボリと炭でもかじってるような硬さと苦さである。
「おいしい?」
「苦い」
「……。」
「……新入りはオレに完成品を献上するのが決まりだ。明日から持って来い」
「!!食べてくれるの!?」
「決まりだからな」
勿論俺が今決めただけだが。気まぐれだった。
だが、それからと言うものいやに懐かれた自覚はある。
学校で見つければまっすぐ飛んできた。ああ、本当に文字通りの「まっすぐ」。取ってこいと命令してフリスビーをした犬のごとく障害物を飛び越え、例え何階からだろうと飛び降りてきた。
確かに運動神経はあるようで途中のベランダやらパイプやらで器用に勢いを殺して飛んできた。
「ボースー!!おーはよー!!」
その奇行と性格、また見た目から有名人だ。勿論その目標物であるオレも有名人になってしまった。
朝一番に狩りを仕込まれた大型犬が一直線に向かってくるような気分だ。初めて飛びかかられたときは「ぐふぅっ」となされるがままだった俺も最近は投げ技打撃技豊富に迎え撃ちを出来るまでに成長し、…いやなんでオレは後輩の女殴るようになってんだよ一人でアホなぶんには構わないが オ レ を 巻 き 込 む な ! !
「ぶっ、懐かれちまったなぁ」
「他人ごとだと思いやがって…!」
「可愛い後輩だろうがぁ。割とあいつ餌付けしようって奴はいるんだぜぇ?ベルとかフランとかディーノとか」
「は、俺は何もしてねぇし懐かれたくもねぇ」
「……(幹部の作った菓子は毎回文句言いながら口にしつつ残さず帰るくせに…懐かれたくねぇ…だと?)顔は割と悪くねぇだろぉ」
「ペドかテメェ。童顔なだけだろうが」
「……童顔が好きなのかぁ?」
「好きなわけあるか」
「……」
*
ぶしゃっ。
「ぶぎゃああああん!!」
怪物が退治されたような声が廊下まで響いて何事かと調理室に顔を出せば幹部が指を押さえていた。
腕に血が伝っていてスクアーロが看ていた。
包丁片手なのをみるに包丁で切ったらしい。
「お、XANXUS」
「…何やってんだ…」
「ボスゥウウ指がぁああ!!とれるぅうう!!」
「とれねぇから落ち着けぇ。飾り付けフルーツ切ってたら手を滑らせたらしい。保健室つきそってやってくんねぇかぁ?」
「何で俺が、「他の部員はもれなく作業中だからだろうが。どうせ食う段階になるまで何もしねぇんだから可愛がってる後輩の面倒くらい見ろぉ!」
「指がぁあああ!!」
「あーうるせぇ!!」
あんまりにもうるさかったので腕を引っ張りさっさと保健室に連れ込む。怪獣みたいな声あげて泣く年齢じゃねーだろと毒づきながらも暫くしたら落ち着いてきたようでまだひっくひっく肩を揺らして泣きながらも怪獣のような雄叫びはあげなくなった。
しかし保健室に保健医がいなかったので舌打ちしながら血まみれの手を洗わせ椅子に座らせ消毒液を探すもどこにあるのかわかんねぇ。
「ちょっと傷口舐めてろ」
「うああ…」
「消毒効果が、「指とれたらお菓子作れない…!」
血を見て錯乱してるのかその程度で指が取れるわけねーだろ、と思うものの話しても聞かなさそうだったので手を引っ張り上げ指先を舐めたら漸く黙った。
「ボス…」
そして冒頭に戻る。
なぜこのタイミングで告白しやがる。固まっていれば漸く泣き止んだものの潤んだ目が見上げて、また好きだと口にした。
アホな後輩の指を舐めたままの格好で固まっていた自分の時間がやっとこ動き出した。
「…新手のギャグか」
「ううん!本気!!」
「……新手のギャグか」
「ううん!本気!!」
「…………」
確認を込めて同じ質問を二回したが答えは変わらなかった。
「………。何でオレなんだ」
「まずいって言いながら私のお菓子食べてくれたでしょ」
「……」
「毎日頑張って、食べてもらって、いつかおいしいって言ってくれたら言うつもりだったけど…指がぁあああ」
「……とれるわけねぇだろ」
「ううっ…お菓子作れなくなったら…」
「皮がめくれただけだ」
「……ほんと?…また食べさせられる?」
「当たり前だ。だから俺がうまいって言うまで諦めんなよ」
「!うん!!」
ドッグフードを召し上がれ
(いつか人間の食い物作れるようになったら考えても良い)
20130615(title:反転コンタクトさま).
「……は?」
部活の後輩に告白されて固まった。
*
部活に新入生が入った。
美人でスタイル良しだがやけに苦労性な表情をした頼りになるしっかり者と、少し頭が足りなさそうな小動物的な落ち着きのない動きをする幼児体型まっしぐらなガキ。
後者は二つしか離れてないなんて嘘だろ、と思う。
しかし聞くところによれば入試での学年での順位は片手の指で数えられる順位だという。人は見かけによらない、とはこのことか。
因みに美人の方は言うに及ばず勉強では首席、新入生代表の挨拶をしていた。
まあしかし、勉強が出来るのとは関係なく――ちびガキ――幹部は部活では成績はダメダメだった。
運動でも座学でもない。
――お菓子研究部。物作り料理系の部活である。幹部は手先が不器用だった。
ちなみにオレは自分の部活を言うと驚かれるのだが、俺自身スクアーロからしつこくしつこくしつっこくストーカーかコイツと疑うレベルに誘われ半年。いい加減に根負けして幽霊部員で良いなら入ってやるからストーカーを辞めろ、と条件だして入っただけで最後に顔出して完成品を摘まむだけ、というオーブンを触ったこともないような幽霊部員だ。
「………」
幹部が皿と向き合っていた。
普通完成品は大皿に空けて皆で食べるのだが、幹部のは見るからに黒こげなので混ぜられなかったようだ。
美人の、補佐のはもう先輩のに混ぜても問題ない、どころか先輩のより上等で先に売れる。
幹部は皿を見つめながらボリボリ虚しくかじっている。後ろから手を伸ばして皿から一枚奪ったら幹部が手を追って振り返った。
「あ。ボスだ!」
「何でボスなんだよ」
「スクアーロ隊長が、XANXUS先輩は喧嘩で負けなしで強いからボスなんだって言ってた!私もボスって呼んでいい?」
因みにスクアーロは隊長ではなく部長である。
直すつもりもないがいちいち頭が足りなさそうだ。頭がいい馬鹿の見本。
「…好きに呼べ。お前は、」
「幹部!えーっと、新入生の小さい方!」
「見りゃわかる」
「幹部って呼んでね!」
「……幹部」
「うん!」
にっこにこしながら自己紹介してきた幹部の、先ほどの皿から摘まんだ黒こげクッキーを口に放り込めば予想に反さずボリボリと炭でもかじってるような硬さと苦さである。
「おいしい?」
「苦い」
「……。」
「……新入りはオレに完成品を献上するのが決まりだ。明日から持って来い」
「!!食べてくれるの!?」
「決まりだからな」
勿論俺が今決めただけだが。気まぐれだった。
だが、それからと言うものいやに懐かれた自覚はある。
学校で見つければまっすぐ飛んできた。ああ、本当に文字通りの「まっすぐ」。取ってこいと命令してフリスビーをした犬のごとく障害物を飛び越え、例え何階からだろうと飛び降りてきた。
確かに運動神経はあるようで途中のベランダやらパイプやらで器用に勢いを殺して飛んできた。
「ボースー!!おーはよー!!」
その奇行と性格、また見た目から有名人だ。勿論その目標物であるオレも有名人になってしまった。
朝一番に狩りを仕込まれた大型犬が一直線に向かってくるような気分だ。初めて飛びかかられたときは「ぐふぅっ」となされるがままだった俺も最近は投げ技打撃技豊富に迎え撃ちを出来るまでに成長し、…いやなんでオレは後輩の女殴るようになってんだよ一人でアホなぶんには構わないが オ レ を 巻 き 込 む な ! !
「ぶっ、懐かれちまったなぁ」
「他人ごとだと思いやがって…!」
「可愛い後輩だろうがぁ。割とあいつ餌付けしようって奴はいるんだぜぇ?ベルとかフランとかディーノとか」
「は、俺は何もしてねぇし懐かれたくもねぇ」
「……(幹部の作った菓子は毎回文句言いながら口にしつつ残さず帰るくせに…懐かれたくねぇ…だと?)顔は割と悪くねぇだろぉ」
「ペドかテメェ。童顔なだけだろうが」
「……童顔が好きなのかぁ?」
「好きなわけあるか」
「……」
*
ぶしゃっ。
「ぶぎゃああああん!!」
怪物が退治されたような声が廊下まで響いて何事かと調理室に顔を出せば幹部が指を押さえていた。
腕に血が伝っていてスクアーロが看ていた。
包丁片手なのをみるに包丁で切ったらしい。
「お、XANXUS」
「…何やってんだ…」
「ボスゥウウ指がぁああ!!とれるぅうう!!」
「とれねぇから落ち着けぇ。飾り付けフルーツ切ってたら手を滑らせたらしい。保健室つきそってやってくんねぇかぁ?」
「何で俺が、「他の部員はもれなく作業中だからだろうが。どうせ食う段階になるまで何もしねぇんだから可愛がってる後輩の面倒くらい見ろぉ!」
「指がぁあああ!!」
「あーうるせぇ!!」
あんまりにもうるさかったので腕を引っ張りさっさと保健室に連れ込む。怪獣みたいな声あげて泣く年齢じゃねーだろと毒づきながらも暫くしたら落ち着いてきたようでまだひっくひっく肩を揺らして泣きながらも怪獣のような雄叫びはあげなくなった。
しかし保健室に保健医がいなかったので舌打ちしながら血まみれの手を洗わせ椅子に座らせ消毒液を探すもどこにあるのかわかんねぇ。
「ちょっと傷口舐めてろ」
「うああ…」
「消毒効果が、「指とれたらお菓子作れない…!」
血を見て錯乱してるのかその程度で指が取れるわけねーだろ、と思うものの話しても聞かなさそうだったので手を引っ張り上げ指先を舐めたら漸く黙った。
「ボス…」
そして冒頭に戻る。
なぜこのタイミングで告白しやがる。固まっていれば漸く泣き止んだものの潤んだ目が見上げて、また好きだと口にした。
アホな後輩の指を舐めたままの格好で固まっていた自分の時間がやっとこ動き出した。
「…新手のギャグか」
「ううん!本気!!」
「……新手のギャグか」
「ううん!本気!!」
「…………」
確認を込めて同じ質問を二回したが答えは変わらなかった。
「………。何でオレなんだ」
「まずいって言いながら私のお菓子食べてくれたでしょ」
「……」
「毎日頑張って、食べてもらって、いつかおいしいって言ってくれたら言うつもりだったけど…指がぁあああ」
「……とれるわけねぇだろ」
「ううっ…お菓子作れなくなったら…」
「皮がめくれただけだ」
「……ほんと?…また食べさせられる?」
「当たり前だ。だから俺がうまいって言うまで諦めんなよ」
「!うん!!」
ドッグフードを召し上がれ
(いつか人間の食い物作れるようになったら考えても良い)
20130615(title:反転コンタクトさま).